京祭りの探し人







遠くに太鼓の音が聞こえてくる。
屯所から外を覗くと、橙の光が夜の町を明るく照らしていた。

夏。
この時期、京では祭りが催され、町の人達は踊りや歌、酒に御輿と楽しんでいた。
新選組はというと・・・
浮かれているわけにもいかず、祭りの警備のため、それぞれ割り振られた場所の警備にあたっていた。

一方、千鶴は屯所で一人暇を弄んでいた。
畳に足を伸ばして座り、金平糖をカリカリと口に運ぶ。

「お祭りかあ・・・私も行きたいけど・・・・」
土方さんが許してくれるはずもない。

祭りの日だからこそ余計に用心するに決まっている。

ふう、と溜め息をついて町の方を眺める。
そこへトタトタと足音が聞こえてきた。
立ち上がって廊下を覗く。
・・・と、向こうから近藤が歩いてきた。
今日は近藤が屯所の見張り番らしい。
そしてその手には大きな風呂敷がかかえられていた。

「?」

首を傾げていると千鶴に気付いた近藤が、ニコッと笑いかけてくる。

「雪村くん。これを着るといい。」

唐突にそう言って、ずいっと風呂敷を渡してくる。

「な、なんですか?」

「いいから開けてみなさい。」

言われて、恐る恐る風呂敷を開ける・・・と、中から赤い布が出てきた。
出して広げると深い赤色に白く花の模様が描かれた浴衣だった。

「近藤さん・・・これ!」

「今日は祭りだろう。こんな所に一人で座っていてもつまらないじゃないか。これを着て祭りに行ってくるといい。」

「え!?」

いいんですか!?と表情で問う。

「なあに、普段男子の格好をしているんだ。女子の浴衣を着て人混みの中を歩いた所で、隊士は気付かんよ。楽しんできなさい。」

そう言って近藤はニコッと笑う。
気付かない・・・
少しだけ複雑な気持ちになりながらも、千鶴は浴衣を嬉しそうに抱える。

「ありがとうございます!近藤さん!」

千鶴はさっそく着替えて祭りに出掛けた。



ドンドンという太鼓の音。
笛の音に、鮮やかな神輿、賑わう人々。
京の祭りは華やかで、歩くだけでも楽しい。
千鶴は近藤からもらった浴衣を着て、カラコロと下駄を鳴らし歩く。

と・・・
前から新撰組の隊士が歩いて来た。
平隊士が四人ほど、人混みの中を歩いて警備しているようだ。

「わっ!やばい!」

男として新撰組にいる以上、見つかったら事だ。
急いでその場から離れようとしたが、もう彼等は目の前に来ていた。

「――っ・・・」

一瞬、目があった気がした。
が、その目は逸らされ、隊士たちは千鶴のすぐ横を通り過ぎていく。

「・・・・」

“隊士は気付かんよ”

近藤の言葉がよぎる。

「・・・はあ〜・・・・」

良かったような悲しいような・・・
複雑な気持ちで千鶴は溜息を吐く。

「でもまあ・・・これでフラフラ歩いていても大丈夫ってことね。」

ふと、自分の正体を知っている人達も、はたして気付かないのだろうか、という疑問が浮かぶ。

それに、
この姿を見てほしい人もいる。

“いや、やはり女子だなあ。よく似合っているぞ雪村くん。”

近藤に言われた言葉を思い出す。

あの人は、なんて言ってくれるだろうか・・・・。

千鶴はカランと下駄を鳴らし、彼がいるだろう場所へ向かう。




左の神社方面に行く。 →


祭りの中心通りに行く。→


右の脇道に行く。 →