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第三話
「・・・なんかお祭りみたい」
城下に下りるとそこは祭りのように賑やかだった。
ざわざわと人混みの中を那智は女中と二人、大通りの端にそって歩く。
お目当ては反物。
深い藍色で上品なものがいい。
そう思っていた。
「・・お祭りって・・・七夕祭りのことですか?那智様のお国にも、この国の七夕祭りの事は知られているのですね。」
女中は夏に城下で行われる七夕祭りのことを言った。
那智の国、とは西の果てにある遠い国のこと。
那智が未来から来たという事実は政宗と小十郎、成実しか知らないことで、那智は遠い西の国から来たことになっていた。
「今年もやるかな、七夕祭り」
「もちろんです。殿はめでたいことがお好きな方ですから。」
7月が楽しみだな、と思いながら那智は出店の商品に目をやる。
少し歩くと、色鮮やかな反物が並ぶ店を見つけた。
店のおじさんが那智に気付いて声をかけてくる。
「いらっしゃい!どうだいお譲ちゃん、どれか買ってかないかい?」
「えぇっと・・・・・」
きょろきょろと商品を見渡す。
どれも色鮮やかな品に、自然と笑顔がこぼれた。
・・・と、売り台の端の方、紺色の布に目が止まった。
深い藍色で、きらきらと編み込まれた糸が光る高級そうなものだった。
「―――これ綺麗!」
言いながら那智はその反物を手に取る。
「いいとこ目ぇつけるねぇ。安くしてやるよ買ってくんな!」
これで政宗さまに着物とか・・・作ってあげようかな・・!
作れるかどうかわかんないけど・・・
実は。城下市の話を聞いて思いついたのは“政宗さまへのプレゼント”だった。
最初は何か珍しい装飾品やらをあげようかと思ったのだが、それでは味気ないような気がして、いつも身につけられる手作りの着物を、と思いついたのだ。
「こんな綺麗な布で着物作ったら・・・・喜んでくれるだろうなぁ・・・!」
何日か前、政宗にオムライスを作ってあげた事があった。オムライスは数少ない彼女の得意料理の一つだ。
材料も現代と違うのであまり旨く作れなかったのだが、政宗はすごく喜んでくれて料理もきれいに食べてくれたのだ。
「・・・・くふふふふ」
その時の政宗の顔を思い出して、一人でクスクスと笑う。
着物を作ってあげたら、どんな顔をしてくれるだろう・・・!
「えへへへへへ!」
ニヤニヤと一人で笑う那智に、女中がおそるおそる声をかける。
その心配そうな声で、那智はハッと我にかえった。
「あっ・・!えと・・・こ、これ!これ、ください!」
恥ずかしさをごまかすように、ずい!と反物を店主につきだす。
「ありがとね、お譲ちゃん!まいど!」
帰ったらさっそく取りかかろう!
そう思って那智は反物を手にした。
*
城に着くと那智はまっすぐに政宗の元へ向かった。
「ただいま帰りました、政宗さま」
仕事部屋にこもっているであろう政宗に、廊下から声をかけるが・・・。
「・・・・・」
返事がない。
「?」
いないのかな?
首をかしげながら、そっと閉められた戸に手をかける。と・・・
「Welcome back.(おかえり)」
「わっ!!」
急に背後から抱き締められた。
耳元で政宗の低音の声が響いて鳥肌が立つ。
「び、びっくりした~!もう政宗さま!」
「ははは!So cute、那智!」
「もう~!」
くい、と顎を取られて上を向かされると頬をなでられて、笑んだ隻眼にじっと見つめられる。
「お土産、買ってきましたよ!お団子!」
「ん、Thanks.城下市で何か買ってきたのか?」
「え・・・・・えと・・・」
那智はきょろ、と目を泳がせる。
藍色の反物、それを買っては来たが、まだ着物の形になっていない。
ちゃんと完成してからあげたいと考えていたのだ。
「ひ、秘密です!」
「Ah?」
なんだと?というふうに政宗は顔をしかめる。
慌てて那智は言い訳をする。
「あ、ちゃんと、言える時が来たら言いますから!」
「・・・・」
「ね?政宗さま」
お願い!と付け加えれば政宗の顔が緩む。
「しょうがねえな。俺は約束は絶対に忘れねえ。わかってるよな那智?」
「それは!もちろんですよ!」
「Ok.気長に待つとするか。」
「待っててください!」
ニコッと笑って言えば、唐突に那智の唇を政宗のそれが塞ぐ。
「んっ――――・・ふ・・・」
ぺろ、と下唇をなめられて、そのまま正面から抱きしめられる。
那智も政宗の背に腕を回す。
そうすると、ふんわりと政宗の匂いに包まれる。
・・・すごく安心する場所だ。
「・・那智。」
「はい?」
くっついているせいで政宗の低音が体に響く。
「今夜は先に寝ててくれ。」
「・・・なんでですか?」
パッと顔を上げるな那智。
見上げるとすぐ近くに政宗の顔があった。
「軍議だ。」
「――軍議・・・・・また、・・・戦・・ですか」
軍議。那智にとってそれはすごく嫌な言葉だった。
それを聞くとひどく不安に駆られる。
また、戦が始まって、皆が怪我をしてしまうかもしれない、と。
そんな那智に気付いてか、政宗はニッと笑って優しい声音で話を続ける。
「Don`t worry.(心配すんな)近く、北の方の様子を成実に見て来させる。その話合いだ。戦じゃねえ。」
「・・はい・・・・」
北の土地で一揆やら何やらの騒ぎがあることを那智も知っていた。
その様子見に成実を行かせる準備、というところだろう。
詳しい事を知れば、もしかしたら安心できるかもしれないけど・・・・
でも・・・・聞くわけにはいかないし・・・・・
政宗は、不安顔の那智の頭を抱え込むように抱き締めて、もう一度「Don`t worry.」と小さく言った。
「・・・」
どうか、何も起こりませんように・・・・。
そう、那智は思った。
第四話
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