第六話





「大丈夫か?」

「あ―――は、・・はぃ・・・」

そう答えると白髪のその男は「よし!」と笑ってを背に庇う。

「俺の後ろにいな。あんな山賊風情、俺が追い払ってやるからよ。」

そう言って男はを追ってきた男たちに向かい、鎖の付いた大きな錨(いかり)を振り下ろす。
ぶん、と大きな一振りで周辺の竹は次々と倒れていく。

「っ―――」

そのあまりに豪快な様子に、は声も出ずただ立ち尽くしていた。

「腕に自信のある野郎から、かかってきな!」

そう白髪の男が言うと、たったそれだけで、山賊たちの先程の威勢はどこへやら、「ひっ!」と声をあげて、もと来た道を逃げ帰っていく。

「あ!?なんだあ!?」

蜘蛛の子を散らすように、山賊たちは竹藪の奥に姿を消した。

「ったく、情けねえなあ!」

そう言って白髪の男はどん、と錨を地面に突き刺す。
・・竹の葉が舞う藪の中に、堂々たるその背中。は呆然と男を見つめていた。

ふいに竹藪の奥から「アニキ〜!」と声が聞こえてきた。
振り向くと体格のいい男が一人、こちらへ走り寄ってくる。

「おう!どうした、何かあったか」

「はぁはぁ、・・何かあったか?じゃないですよ兄貴!一人でどっか行っちゃわねぇでください!探しちゃったじゃないですか!」

「あぁ、悪ぃ悪ぃ。そこの譲ちゃんが野郎どもに追われてるの見たらよ、ついな。」

そう言って白髪の男はに視線を向ける。
はギクッと肩を震わせた。

「大丈夫だったかい?」

「あ・・はい。ありがとう、ございました・・・」

「なぁに、どうってことはねえよ。・・それより、怪我してるぜ」

「え・・?」

男はの膝を指さす。
見ると、じわり、と血が垂れていた。

「あ・・・」
さっき転んだ時に・・・・

そう思い返していると、次第に他の場所も痛くなってくる。
葉で薄く切れた頬や、すりむいた腕。足首も少し捻ったようだった。

「歩けるか?陣まで来れば手当てしてやれるが」

「あ・・大丈夫です。この先に蕎麦屋さんがあるらしいから、そこで手当てしてもらいますし・・・」
・・・てゆか正直、・・・悪い人ではないんだろうけど・・・・迫力があり過ぎて、少し怖い・・・・・

言いながら、は足を踏み出す。
と・・・

「っ・・・!」

左足首にズキッと強い痛みが走った。
血が出ている膝より、こちらの方が重症のようだった。

「・・・・・・」

その様子を見ていて、白髪の男はの前に屈むと、そのままの体をひょい、と肩に担ぎあげた。

「え、きゃあっ!」

急に不安定になった体に驚いて、は必死に男の上着にしがみつく。

「は、放して・・!おろしてください!!」

「この足じゃ歩けねえだろ。陣で手当てしてやるから静かにしてな。」

「や――ちょっと!」

必死で抗議するが男はどこ吹く風。
軽い足取りで竹藪を歩き始める。
ゆさゆさと揺れる体が怖くて、途端には静かになる。

「・・・・」

急に何も話さなくなったに、男は話しかける。

「あんた、ここらの者か?」

「・・・・・はい」

「あー、なら知ってるか?米沢城に行く道」

「・・・・・・はい?」
米沢城って・・・・
「・・・政宗さ・・・・政宗公に、何か用でもあるんでしょうか・・?」

「おーそうそう!独眼竜にな!会いに来たのよ!」

「――――な・・」
何のために・・?

戦国の乱世、これだけ腕の立つ豪快な男が政宗に会いに来たとあれば、警戒するのも当然だ。

「独眼竜に手合わせ願いたくてな!」

「て、手合わせって・・・・!」

「俺は長曾我部元親。西海の鬼たあ、俺のことよ!」







第七話






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