第二話





「ん。うまいよ、この握り飯!」

米沢城、その中庭に通じる濡れ縁にて。そう声を上げたのは伊達軍が猛将、伊達成実だった。
戦場では伊達軍一の勇猛果敢な武将であるが、日常ではごく普通の青年である。

「ありがとうございます成実さん。今日は塩味に加えて、胡麻を入れてみたんです。」

「お〜!ないすあいであ!」

「ふふふっ」

うまいうまい、と言って握り飯を頬張る成実に、中庭から声がかかる。

「成実、てめえなんで俺より先に飯食ってやがる・・!」

汗を拭きながら歩いてきたのは、ここ米沢城城主、伊達政宗と、その側近、片倉小十郎である。
三人は毎朝、こうして中庭で鍛錬に励んでいるのだが・・・・大体、成実が一番に飽きて、こうして真っ先に休憩に入るのである。

「いいじゃないの殿。よかったねえ

「へ?」

隣に座るに、成実は急に話を振る。

「政宗、ヤキモチやいてるよ。めっずらしいー、かぁわいいー!」

「えっ・・」
ヤキモチ・・!?

「・・・・・成実。」

その言い様に政宗は青筋を立てる。

「・・・てめえ、一度死にてぇらしいな」

「ヤキモチ・・・・・」

「・・・ん?・・・」

小さく聞こえた声に政宗が振り向くと、そこには顔を赤らめて俯くの姿があった。

「妬いてるよ!間違いないよ、よかったね〜」

そう成実が言えば、はさらに俯き嬉しそうに顔を赤らめる。

「・・・・・」

その様子を見れば、つい政宗も嬉しくなって顔がほころんでしまう。

「・・・・ったく。Do as you like.(好きにしろ)」
そんな嬉しそうな顔しやがって

そう言って政宗はくるり、との頭を撫でる。
・・・と、の髪に付けられた簪が、少し曲がっているのに気付いた。

・・」

「はい?」

「簪、曲がってるぞ。」

「え?」

言いながら、政宗はそっと簪を直してやる。

「ありがとうございます。」

濃い藍色の簪。
それは政宗が初めてにあげたもので。
あげたその日以来、は毎日それを身に着けていた。

「はい、政宗さまも、おにぎりどうぞ。小十郎さんも。」

「ああ、Thanks.」

「・・頂こう。」

「ほんとうまい!今日の塩加減は絶妙!」

まだ一つも食べていない二人を差し置いて、成実はすでに三つ目を手に取っていた。

「・・・あ」

「・・ん?」

急に声を向けるに、成実は食べようとしていた握り飯を口の前で止める。

「成実さん、口にご飯粒、ついてますよ。」

「んえ?」

はくすくすと笑いながら、おもむろに成実の口元に指を伸ばす。

「ほら、ここに――」

――――その手を、
政宗が掴む。

「Stop it!(それはやめろ)」

「わっ!な、なんですか?」

突然大きな声を出されて、は驚いた顔で政宗を見上げる。

「・・・・・You`re really a hebetude.(あんた、ほんとに鈍感だな)」

「・・へ?」

「・・・・・」

全く意味がわかっていない
・・・悔しいので政宗はその指にチュッと口付ける。

「な―――!」

顔が真っ赤に染まったを見て政宗はフン、と鼻で笑うと握り飯に手を伸ばした。

「こ、こ、こんな皆がいるとこで――!」

「Ah?なんか言ったか?」

余所を向きながらパクパクと握り飯を食べる政宗には「恥ずかしいんです!」と声を上げる。
そんな二人の姿を見て、小十郎と成実はくすり、と笑う。

・・ふと、成実はある事を思い出して、にその話を切り出した。

「・・そうだ、。」

「は、はい?なんですか成実さん」

「今日ね、城下に西から行商人が来るよ。」

「・・・・・え?ぎょ、・・行商人?」

突然言われた言葉に、は首を傾げる。

「そ。城下市っていってね。珍しい装飾の簪とか反物を売りに来るんだ。」

「反物・・・・・」

「まあ、2、3日で次の所へ移動していくんだけどね。よかったら行ってくれば?」

ここ何日か全く外に出ていない
成実はそんな彼女に、気分転換をしてはどうかと、言外に提案したのだ。

「城下市・・・・へー!」

みるみる笑顔になるを見て、政宗はくすっと笑う。

「行ってこいよ。俺は仕事でついて行ってやれねえけどな。」

そう言うとは嬉しそうに返事をする。

「じゃあ、出かける準備してきますね!」

そう言うと、は足早に部屋に戻っていった。





「「「・・・・・」」」

残された三人はのんびりと握り飯を頬張る。

「・・・・・まぁったく、かわいいなぁ〜は〜。飯うまいし。」

猫なで声で言う成実に小十郎が顔をしかめる。

「成実。気持ち悪ぃ言い方してんじゃねえ。」

「Is she lovely?(が可愛いって?)・・It`s natural.(当然だろ)」









第三話






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