第十話





前髪を掻き分けられて、そこに口付けを落とされる。
政宗が、泣いて赤くなったの目元を撫でると、目を瞑った拍子にもう一粒涙が落ちた。

「・・・政宗さま・・私、政宗さまに謝らなくちゃいけない事があるんです・・・」

胡坐をかいた政宗の足の間、は横向きに座って、甘えるように政宗に寄りかかっていた。

「・・What?」

聞き返されてはゆっくりと顔を上げる。
頬を撫でる政宗の手に自分の手を添えると、隻眼を見つめる。

「・・・・」

ゆらり、との瞳が不安に揺れた。

「・・・・・簪・・・・」

「・・・・・・」

「っ・・・失くしちゃいました・・・・」

止まったはずの涙がじわり、と浮かんで瞳が涙に潤む。
政宗は何も言わずに、ただを見つめる。

「・・ごめんなさい・・・」

政宗が初めてくれた簪。
それを失くしてしまった自分。
泣くのはずるい、と。そう思って涙をこらえる。
・・・すん、と一つ鼻をすすると、政宗は今度はの目元に口付けを落とす。

「・・・・それを、探しに行ってたのか?」

「・・・・・」

こくん、と頷く

「・・・You`re foolish.(馬鹿だな)・・なんで俺に言わなかった。俺が怒るとでも思ったか?」

「―――」

優しい声音には、ぶんぶんと首を振る。

「今朝、あんたがあの簪を着けていない事くらい気付いてた。だが、そんなこと、わざわざ聞くことじゃねえ。」

「・・・・・」

「・・・だけど、まさか失くしたとは思わなかった」

ははは、と政宗は笑いながら言う。
その顔は、まるでを責めているものではなく、ただ本当に驚いた、という表情だった。

「政宗さま・・・」

その様子には少しだけ心が軽くなる。

「簪なんていいんだ。そんなのはまた俺が買ってやる。大事なのはそんな事じゃねえ。」

言って政宗は真剣な顔になる。

。・・・俺はあんたに、この時代を強制したりはしない。」

「・・・え?」

は首を傾げる。

「未来では、女も自由に外を一人で出歩いていたんだろう?・・だから俺も今回、一人で出かけたいって言ったあんたに忍びをつけなかった。
だが、それが俺のFailure(失敗)だった。心配を抱えるあんたに気付かなかった。怖い思いをさせたあげく、怪我までさせた。」

「――ち、違います!それは私が―――」



言いかけたの唇を、政宗は指で制する。

「だから、今度からは全部俺に話してくれ。思っている事、不安も、全部。
そうすれば必ず、あんたを守れる。・・・・Please promise.(約束してくれ)・・・。」

「―――」

強く、政宗の目が訴えていた。
はこくん、と頷いて、涙声で「はい」と答える。

「・・・Good.(いい子だ)」

ぎゅっと、抱き締められる。

優しい言葉に、優しく撫でる手。
その全てに心が震えた。

ああ、なんてこの人は大きい人なのだろう、と。









第十一話






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