第十一話





「独眼竜!約束通り、礼をもらいに来たぜ!」

昼にもならないうち、米沢城に大きな声が響き渡った。
言うまでもなく声の持ち主は西海の鬼、長曾我部元親。
が足を庇いながら庭へ出た時には、すでに政宗と元親の一騎打ちに、城内はまるでお祭り騒ぎになっていた。

「まったく・・・・昨夜の執務も終わっていないというのに・・・危ねえから絶対に近付くんじゃねえぞ。」

お祭り騒ぎの中、と小十郎は共に庭の端で騒ぎを見守っていた。

政宗の執務の遅れ・・・
心当たりがあるは気まずそうに俯く。
執務が滞っているのは、実はのせいでもあるのだ。

――昨夜。
はどうしても政宗と離れがたく、自室に戻ろうとする彼を、もう少しもう少しと引きとめるうち、結局そのまま政宗はの部屋で寝ることになったのだった。
そのせいで執務が終わらなかったらしい。

「あの・・・すみませんでした・・・・」

「あ?・・ああ、気にするな。まぁ、今は成実もいねえからな。仕方ねえ。」

以前話していた北の地への様子見に、すでに成実は出払っていた。
が一人で城下に出た日の午後、小数を連れて急ぎ出たらしい。

「・・成実さん・・・・」
何もなければいいけど・・・・

そんな話をしている間にも、城内にあった蔵が一つ崩壊した。

「・・長曾我部の野郎、米蔵を粉々に砕きやがった・・!」

「へ?」

小十郎のぼやきに振り向けば、そこには見事に砕かれた蔵の残骸が・・多々・・・・。

「うわっ!!まっ!政宗さま〜!!もうやめてくださーい!お城壊れちゃいますよーー!」

日が傾く頃には蔵のほとんどが倒壊してしまった事は言うまでもない・・・。




そしてその夜、城では盛大な宴会が開かれた。
何十人という伊達軍、長曾我部軍の兵たちはすでに酔っ払い集団になり、昼間以上に騒がしい宴会になっていた。

政宗や元親はその一角で杯を交わし、はその傍でお酌をしていた。

「・・あ、そういや、足は大丈夫か?」

元親にそう聞かれては「はい」と頷きながら酒を注ぐ手を止める。

「元親さんに手当てしてもらったから回復も早いです!大丈夫です。」

「そうか、そりゃ良かった。」

そう言って元親がポン、と頭を撫でればは嬉しそうに笑った。
その様子を見やって、隣に座っていた政宗が声をかける。

「今回は・・・・本当に助かったぜ。」

低く穏やかな声がかけられた。
それを聞いて元親は「気にするな」とでも言うように、ニッと笑う。

「とんだじゃじゃ馬だ。苦労するな独眼竜よ。」

言われて政宗はくっくっ、と俯いて笑い、元親は大声で笑った。

「・・・・ん?」

自分の事とはつゆ知らず、二人がなぜ笑っているのかわからないは、一人首を傾げていた。

















ぐごーっ、と大きないびきが、そこかしこから聞こえる。
雲一つない静かな星空の下にはまるで相応しくない騒音だった。
宴の後。
伊達軍も長曾我部軍も関係なく、男たちは折り重なるようにして寝ていた。

そんな部屋の端で、壁に寄りかかり政宗は片膝を立てて座っていた。

「・・・もうお開きですかね、政宗さま。」

元親の隣に座っていたが政宗の方を振り向く。
元親も他の者たちと同じく、大きないびきをかいて眠っていた。
政宗は柔く笑うとに手招きをする。

「・・・なんですか?」

来い来い、と言われてそれが嬉しくては微笑む。
近くまで来ると手を引っ張られた。膝の上にのせられて、そのまま正面からぎゅっと抱き締められる。
応えるようには政宗の首に腕をまわす。
鼻先を政宗の首元に擦りつけるように甘える。

「・・・・ようやく、一人占め出来た。」

掠れた小さな声で聞こえてきたその言葉に、はクスクスと笑う。

「やっと一人占めされました。」

そうして二人で内緒話でもするかのように、クスクスと笑い合う。
ゆるゆると政宗の手がの背を撫でる。
触れ合った先からお互いの温もりを感じる。

暖かくて安心する温度。

「・・・俺が・・・・」

「・・はい。・・・・?」

「・・・・必ず、守る。・・・。」

「――――・・・・」

・・その言葉が嬉しくては微笑んで、ぎゅうっと政宗に抱きついた。
を抱く政宗の腕にも力が入る。

「・・・・足の痛みがとれたら・・・新しい簪を買いに行こうな。」

優しい声が耳元で囁く。

「――――ん・・」

嬉しさで涙ぐんだには返事さえ声にすることが出来なくて、ただ強く頷いた。









第十二話






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