第十二話




ふわり、と色素の薄い髪が舞う。
彼等は深い闇から時折、光の中へとその姿をさらす。

一つの物音もさせず木々を抜けると、そこには奥州の城が見えた。
米沢城城主、奥州筆頭伊達政宗に会うために、彼女は遥々ここまで来たのだった。






―――その頃、は政宗と共に城下に来ていた。

元親がこの地を去ってから早五日。
足の痛みもほとんどなくなり、今日は政宗に簪を買ってもらうことになっているのだ。

は町の人の目も気することなく、政宗の左腕にピトッとくっついて歩いていた。
その歩調に合わせて政宗もゆっくりと歩く。

「ぅわ〜楽しみです!どんなのがいいかな〜」

昨夜から「簪、簪」と一人でうきうきしていたを思い出して政宗はクスと笑った。
大通りの一角をまがった所に目的の店がある。

飾り屋の店に入ると政宗に気付いた店主が「いらっしゃいませ政宗様」と深く頭を下げた。

「Choose the favorite thing.(好きなの選べ。)」

「はい!ええっと、青いのがいいんです!」

「そうか。」

政宗は笑顔で見上げてくるの頭を撫でて「選んで来い」と背を押してやると、そのまま店の壁に寄りかかって、腕組みをしての様子を見守る。

「・・・・・・」
嬉しそうにしやがって・・

しばらくはあれでもないこれでもない、と店内をウロウロして、ようやく見つけた1つを手にする。
薄黄色の花があしらわれた深い藍色の簪で、その先に小さな鈴がくっついている物だった。

「これ・・!」

簪を持って、が満面の笑みで振り向く。
その顔を見て政宗も目を細めた。

「・・・・気に入ったのか?」

「はい!」

あんまり嬉しそうに笑っているので可笑しくなった政宗は「ははは!」と笑って、それをの髪に挿してやる。

「Good.lovelyだぜ、Honey.」

「ありがとうございます!政宗さまっ!」

「おっと・・!」

言って、がばっと抱き付くを笑いながら政宗が抱き締める。
簪を失くしてから心なしか寂しそうだった
「ようやく笑ったな。」と政宗はの耳元で囁いた。







       *







城に戻ると政宗は政務のため仕事部屋へと入っていった。

は自室に戻って、政宗にプレゼントしようと考えている着物を縫い始める。

もともとあまり裁縫が得意とは言えないにとって、これがなかなか時間のかかる作業だった。
時々針で指を刺しながらも女中に教わりつつ、ちまちまと糸を進めていた。

「・・・・・ふぃ〜・・・ちょっと休憩〜・・・・」

「だいぶ進みましたね。御上手に出来てますよ様。」

「えへへ〜。ありがと。」

笑った拍子にチリン、と簪の鈴が鳴る。

「それにその簪、とってもお似合いですよ。良かったですね。」

笑顔で言われては嬉しそうに笑う。

「疲れましたでしょう?お茶でもお飲みになりますか?」

「あ、はい。飲もうかな。」

「お待ちくださいませ、今ご用意しますから」

そう言って女中は部屋を出て行った。

「ふ〜・・」

は一つ息を吐いて縫いかけの着物に目をやる。
ここまで自分なりによく出来ていると思う。
まだ半分も終わっていないが、完成が待ち遠しかった。

「・・・・・」

ピチチ、と囀る鳥の声には中庭を振り向いた。
晴天に真っ白な雲が綿毛のようにふわふわと漂っていた。

「いい天気・・・」

・・・そこに、一陣の風が吹いた。

ザッと木々が揺れる。

「・・・・・・」

・・・・・ふ、と。

何かが、気になった。

自分でもわからない・・・言うなれば第六感、とでもいうべきか。

今それぞれの部屋に分かれたばかりだというのに、なぜか政宗に会いたくなった。
つい先程、別れたばかりなのに・・・・。

・・・・・・どうして・・?

「・・・・・・・」

は不意に立ち上がると、そのまま政宗の仕事部屋に向かった。









第十三話






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