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第十三話





政宗の仕事部屋の前まで来ると一瞬、中の空気が揺れた気がした。

閉じられた障子に映る自身の影を見つめながら那智は声をかける。

「政宗さま・・・」

一瞬の間をおいて政宗が「・・なんだ、どうした那智」と返してきた。

「・・・・・・・・・」

不自然な間があったように思う。
多分、いつも政宗の近くにいる者でなければ気がつかない程の間。

「・・・・・・・・」

「・・・那智?」

呼び掛けておいてしばらく沈黙していたものだから政宗の方から声をかけてきた。

「ぁ・・・入っても・・いいですか?」

「Of course.なんだいつも勝手に入ってくるくせに」

政宗の声に、ははは、という笑い声が重なる。
小十郎も一緒にこの部屋にいたらしい。

・・なんだ小十郎さんがいたから何か気配を感じたのかな?
「入ります。あの、別に用はないんですけど・・・・・・」

戸を開けると、なんでか自分の方を見ている政宗と小十郎がいた。
仕事をしていた気配は、ない。
ただそこに座していた、という雰囲気。

「・・・・・?」

違和感を感じて那智は思いきって聞いてみることにした。
何を、と言われてもよくわからない。
ただ何かを隠していることはわかったから。

一瞬、仕事の事に口を出すのは失礼かと思ったが、言えない事なら政宗は決して言わないだろうと思い聞くことにした。

「・・・政宗さま。あの・・・・何か、隠してませんか?」

「・・・・・・・」

政宗も小十郎も無言で、しかし軽く目を見開いた。
じっと政宗の隻眼を見つめる。
小十郎が見開いた目のまま政宗に目をやる。と・・・・

「くっくくく」

政宗は俯いて笑い始めた。

「はっはっはっはっ!」

「!?」

急に笑いだした政宗に驚いて、今度は那智が目を見開いた。

「あんた最高にCoolだぜ!さすが俺が惚れた女だ!」

政宗は大きく笑いながら那智にこっちへ来い、と手振りをしてみせた。

「確かに。大したものだ那智」

小十郎までもが誉めてくれる。

「???な、何が??」

那智からしてみれば、何か隠してないか?と聞いただけ。
なぜ褒められるのか見当もつかない。

言われた通りに那智が政宗の元へと歩み寄ると、そのままぎゅう~っと抱き締められた。
それもすごく嬉しそうに。

「???」

「Useless(駄目だ)!那智に隠そうとしても無駄だな。出てこい、上杉の使い。」

「上杉?」

その言葉に那智は首を傾げる。
政宗は屋根裏に向かって声をかけた。

「こいつに隠し事は出来ねえってことはわかっただろ。」

その言葉に、少しの間のあと屋根裏から女性の声が返ってきた。

「姿を見せるつもりはない。私は忍びだぞ。たやすく姿など見せられるか。」

「・・・・忍び・・?佐助さんと同じ・・?」

「Yeah.上杉との同盟の話を、この俺に持ってきたってわけだ。」

「同、盟・・・」

姿は見えないが、その忍びの声は張りのある若い女性のものだった。
その声が政宗に話しかける。

「・・とにかく。私は一度越後へ帰り、謙信様にここでの話を伝えねばならない。・・・失礼する。」

そう言って、その後は何も声がしなくなった。
「帰ったか」という政宗の言葉で、もうすでに忍びがそこにいない事を知る。

・・・・やっぱり私には気配なんて全然わからないや・・・

そう思っていると政宗の手が優しく那智の頭を撫でた。

「Sorry、那智。隠し事をするつもりはなかったんだが、国の事だからな。」

政宗の事だ。自分に余計な心配をかけまいと、言わないようにしようと思ったに違いない。
那智は「いいの。」と首を横にふった。

「・・・・」

女の忍び・・・

くのいち・・・・。

女性でさえこの時代では争いの中にいる。
現代人の那智にはそんな事さえよくわかっていなかった。

この時代に生きていく、というのはどうゆうことなのか。
那智は心の中でそれを思った。









第十四話






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