第一話





世界を東雲の空が包んでいた。
チュンチュンと鳥が鳴き、朝の柔い風が吹き抜ける。
一面を覆っていた雪はそのほとんどが溶け、山の頂だけがまだ白く、寒さを残していた。

ほのかに肌寒さを残す季節。

奥州、米沢城。

その一室で高須は目を覚ました。
この世界、戦国時代に落とされてから半年がたつ。
今では朝起きて目に映る和風の天井に違和感を感じなくなった。


「ん・・・ぅん・・・・・」
・・・・なんか・・・・体、重いなぁ・・

は重い体をそのままに、布団の上で頭だけをごろ、と動かし薄明かりの方へと顔を向ける。
目を開けた先には薄青色に染まった障子が見えた。

・・・ん・・・・今、何時だろ・・・・

障子のむこうからはチュンチュンと鳥の声が聞こえてくる。
目の前には布団に投げ出された自分の左腕が、襦袢の袖がめくれて二の腕まで見えていた。

・・・・・?・・・・あれ?政宗さまがいない・・・

昨夜確かにの左隣に寝ていたはずの政宗がいなかった。
広く白い布団が広がっているだけ・・・。


「?」
どこ行ったんだろう・・?
「・・・・・・んっ・・・てゆか、なんか苦し・・・・・・」

窮屈に感じる自分の体に視線をやる・・・・・と。

「・・・・・・・・・・」

スウスウ、と寝息をたてて・・・・そこに政宗が寝ていた。
の胸元に顔をうずめて。

「わっ――」

抱き締められている、というより抱きつかれている状態には顔を赤くする。

「――どうりで・・・・」
苦しいわけだわ・・・

無意識にドキンドキンと心拍が上がってしまう。

「〜〜〜〜」
わあっ落ち着いて私!起きちゃう、起きちゃうからー!もったいないじゃん!

大抵、より政宗の方が起きるのが早いので、こうして彼の寝顔を見られるのはかなり珍しいことだった。
そんなには気付かず政宗はスウスウと、気持ち良さそうに寝ている。

「・・・・・」
・・・・か、かわいい・・・・

いつもつり上がっている眉が下がり気味になって、普段よりずっと幼く見える。
さら、と髪に触れれば「ん」と言ってさらに抱きついてくる。

「〜〜〜っ」
かわいい〜!!

我慢出来なくなってはきゅっと両腕で政宗の頭を抱き締める。

「ん〜・・・・」

政宗は眉をひそめ、苦しそうに声を上げるとパチと目を開ける。

「・・あぅ・・・・起きちゃった・・・・・」

眼帯をつけていない素顔がを見上げてくる。

「・・・・・おはよう・・ございます政宗さま」

「・・・・・・Good morning.」

そう言って政宗は、襦袢の隙間から覗くの胸元にチュッと口付ける。

「きゃっ!もう、政宗さま!」

そのまま政宗はの体をゴロンと仰向けにして覆い被さる。

「わ!お、重いですー!」

恥ずかしくてつい文句を言ってしまう。
それをわかっていて政宗は優しく口付ける。

「んっ――」

深く口をふさがれて力が抜けていく。

「っ―――はぁ・・・」

ふぅ、と息を吐くにクスッと笑うと政宗は体を起こし、グイーッと体を伸ばす。

「さて、起きるか。」

「朝の鍛錬ですか?」

「ああ。」

「じゃ私、おにぎり作ってきますね。」

「Oh〜thanks.待ってるぜ、honey.」

「はい!」





この時代に来て半年。

運命の満月の日から半月。

少しずつはここの生活に慣れてきていた。
約束の「皆に見せる」祝言をひと月後に控えた、伊達家のお話である。







第二話






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