第八話





大きな月が出る頃、と元親は城下に到着した。
町の灯りはすでに消え、辺りは静けさに包まれていた。

「ほら、着いたぜ。」

そう言われて、は「はい」と頷く。
・・・・さて、家はどうしよう・・・・。

「あ、あのこの辺でもう大丈夫です。あとは歩いて帰れますから。」

城を遥か先に見て、は元親にそう声をかけた。
この辺りに下ろしてもらえれば、ばれないと考えたのである。

「・・・・いや、ちゃんと家まで送るぜ。」

「でも・・・」

言いながら元親を見上げると、そこには柔く微笑む元親の顔があった。

「・・・・」

そのまま何も言わず、元親は馬を歩かせる。
向かう先は、・・・米沢城。
城下の大通りから真っ直ぐにのびるその道を馬はゆっくりと進む。
よく見ると、先に見える城は灯りが灯され、まるで戦に行く前夜のように明るかった。

「・・・・・?」

なぜだろう、とは首を傾げる。

「あんなに城に灯りが灯されてやがる。こりゃあ、ただ事じゃねえな。」

「・・・・何か、あったんでしょうか・・・?」

「ああ。多分な」

言いながら元親はさらに城に近付いて行く。
それに気付いては元親に声をかける。

「あ、あの!私、ほんとに、ここまでで大丈夫ですから!家、すぐ近くだし!」

。もうわかってる。」

何が――とは言わなかった。
歩みを進める先にあるのは米沢城。
元親がそこにを送り届けようとしているのは明白だった。

「――――」

「・・・はは!甘ぇなはよ。そんないい着物着てりゃ、ただの娘じゃねえ事くらいわかる。」

「―――ごめんなさい・・・」

「気にするんじゃねえ。は当然の事をしたまでだ。お、ほら、主のお出迎えだぜ。」

「えっ―――――」

言われてハッと顔を上げると・・・

・・・・城門の前に、彼が立っていた。

「・・政宗・・さま・・・・」

鎧を着けて、今にも戦に行くかのような姿で、その横には小十郎が控えていた。
政宗の顔は、背後にある灯りで陰になっていてよく見えない。
ゆっくりと歩みを進めていた馬が、政宗と小十郎の前まで来てカッ、と足を止める。

「あんたが奥州の独眼竜か。俺は西海の鬼、長曾我部元親。あんたの探しもんはこの娘かい」

元親が言うと、政宗は「ああ」と答える。
そのまるで抑揚のない声音に、の心臓が鈍く跳ねた。

「ほらよ、。降りられるか?」

そう言って元親は、の腕を掴んでゆっくりと降ろしてくれる。
馬上から降りるの体を、政宗が支える。
とん、と地面に足が着くと、政宗はの顔をグイッと自分の方へ向ける。

「っ・・・」

そのままの前髪をわけるように頭を撫でつけ、頬を撫で、首元から肩へと手を滑らせる。

「ま、政宗さま・・・?」

その様子に元親が声をかける。

「安心しな。傷なんかつけてねえ。ただ山賊に追われた時に、擦り傷と少しばかり足を捻ってる。医師に見せてやってくれ。」

そう言われて、政宗は動きを止める。

「・・・・・助けられたってことか」

「まあ、そんなとこだ。」

「・・・・・・」

それを聞いて黙る政宗。
深く被った兜で、表情がよく見えない。

「・・・政宗さま、私――」

「小十郎、を。」

「はっ」

言われて政宗の代わりに小十郎がの体を支える。

「礼を言うぜ、西海の鬼。」

「いいってことよ。また明日、ここに来させてもらうぜ。礼をもらいにな。」

からかうようにそう言い残して、元親は馬をもと来た道へと走らせていった。

「・・・・・・」

その姿を見送って、は政宗の背に声をかける。

「・・政宗さま、私・・・」

「先に手当てを受けろ、。小十郎、連れて行ってくれ。」

「はっ」

そう言って政宗は先に城へと入っていく。
は政宗のそっけないその態度に、彼が怒っているのを感じた。

「政宗さま・・・・」

政宗の後姿が先を歩いて行く。
まるで取り残されるような感覚に、はただ呆然と立ち尽くしていた。







第九話






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