第二話




目が覚めると、そこには天井があった。
茶色の木目の、和風造りの天井だった。

そして体に触れる布団の感触。
は、自分が布団に寝ていることに気付く。

「・・・・・」

その状態のまま、首だけ動かして辺りを見渡す。
すっきりと整理された和室は、意外に広い。
部屋の角に一人、女性が座っていた。
こちらに背を向けているので顔はわからない。
声をかけようか迷っていると、ふいに女性がこちらを向いた。

「あら、気がついた。」

ニコッと笑って、そのまま和室を出ていってしまう。
開けた扉の向こうに、夜の庭が見えた。

・・・・・ここ、どこ?

まだクラクラする頭を、懸命に働かせる。
先程見た光景、途絶える意識。

私・・・・気失ったんだ・・・。

嫌な光景を思い出す瞬間、トタトタと二つの足音が聞こえてきた。
は上体を起こし、和室の入り口を向く。
スッと開けられた先に立っていたのは、記憶に残る、眼帯の男だった。

「気がついたか」

言って、その男はの布団の横に座る。
後ろについてきた、顔に傷を持つ男も彼の横に座った。

「まず。あんたの名前を聞かせてもらおうか。」

強く男の左目が光る。
透き通ったその瞳に、は自然と惹きつけられる。

「俺は、この国を治めてる伊達政宗だ。こいつは小十郎。あんた、名は。」

「・・・・・・・え?」

瞳に見とれていたは、間抜けな声を出してしまう。

伊達・・・・・政宗・・・?

聞いたことがある名前だった。

「だ・・・え・・・・今なんて?だ、伊達政宗?」

聞いたことのある名前。
それは何度も歴史の教科書や、テレビ番組やらで何度も聞いた名前だった。

昔の武将の名前・・・だよね・・・・

あまりに驚いて固まる
政宗と名乗った男は、が名乗るのを静かに待っていた。

あり得ない・・・でしょう、だって。

「・・・・・・おい。」

あまりに長いこと沈黙していたので、政宗は声を上げる。

「だ・・・・伊達政宗?あな・・・あなたが?本物?」

「政宗様だ。無礼が過ぎるぞ、女。」

今度は小十郎が声を上げる。

「あっ・・・・ごめん、なさい・・・」

謝りつつも、思考は別の所に向いていた。

本物の、伊達政宗・・・・・?
え、・・・・・本当に?
・・・だとしたら、今私がいる場所は・・・時代が・・・・
でもそんな事ってあるの?
それに・・・・・

はちらりと政宗を見る。

「・・・・・」
イメージと全然違うし・・・。
もっとゴツイ人を想像してた・・・・

じーっと見ていると急に大きな声をかけられた。

「Hey!いつまで呆けているつもりだ!さっさと名を名乗りな」

「あっ!えっと・・・・・高須・・・です。」

「・・・高須?聞いたことがねえな」

政宗はそう言って、小十郎を振り向く。
小十郎もわからない、という風に首を横に振る。

・・・・・伊達政宗・・・・
この人がねえ・・・。
タイムスリップ、とかいうやつかな、これって。
それとも、夢見てるのかな・・・。
でも、ちゃんと起きてる感じはするし・・・・
・・・・・もし夢だとしても、本物の伊達政宗に会えるなんて、これって、すごいことだよね。

「あんた、どこの出身だ。」

「伊達政宗さま」

「・・・・あん?」

唐突に名前を呼ばれて、政宗は顔をしかめる。

「あの・・・・」

「・・・なんだ。」

「・・・握手、してください。」

「Ah?」

・・・・・・・・・・沈黙が流れる。

「・・・・・・What?何言ってんだてめえ。」

いきなりのお願いに、信じられない、という顔をしているのは小十郎。
政宗は思いっきり嫌な顔をしている。

「いや・・・・。その、帰る前に、記念にと思って。」

ニコッと笑う
ぶちっとキレる政宗。

「てめえ!俺をなめてんのか?女だからって容赦しねえぞ!」

立ち上がり、刀に手をかける政宗。カチャと真剣が鳴る。

「え、わっ!ちょっとやめてください!ごめんなさい、タイミングが悪かったです!ごめんなさい!」

「!」

・・・・・・・・カチ、と刀から手を放す政宗。
一気に殺気が無くなる。

「政宗様・・・?」

「・・・?」

ドキドキとなる心臓を押さえて、は政宗を見上げる。

「・・・・てめえ、異国語しゃべれるのか。」

「・・・・・・え?」
異国語・・・・?
「あ、タイミング?」

「・・・・・」

「そりゃあ、少しは・・・・学校で習うし。」

「・・・・・くっ」

急にくつくつと笑いだす政宗。

「なるほど、やっぱあんた普通じゃないらしいな。こんな言葉、わかるやつはいねえと思ったが。」

「・・・はあ・・。・・・?」

首をかしげていると、すっと目の前に手が伸びてきた。
何かと思って見上げると

「握手。したいんだろ」

「あっ。ありがとうございます。」

言ってその手を握る。
綺麗な手だけど、やはりその手は、刀を握る男のものだった。
ごつくて力強い。
本物の伊達政宗との握手に感動していると、政宗がにこっと笑う。

「悪いが、これは帰る記念じゃねえ。」

「・・・・・・へ?」

「ここに残る記念だ、。・・・you,see?」

「・・・・・はい!?」


ここから、高須の長い長い旅が始まる。





第三話






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