第二十一話




もう少しで満月、という夜のこと。
米沢城の一室。
そこには武将たちが集まり、政宗を中心に話し合いが行われていた。


「政宗様、それは――、あまりに危険です・・・!」

小十郎が異議を唱える。
他の武将たちも無言でそれに同意する。

「もう決めたことだ。それに、この機を逃すわけにはいかねえ事くらい、わかってんだろ、小十郎。」

「・・・しかし・・・・・」

小十郎が異議を唱えるのも無理はなかった。
次の戦、小十郎は外されたのだ。

「この小十郎、戦の時は政宗様のお傍を、決して離れぬと決めておりますれば!」

「その俺が今回は離れろと言ってるんだ。お前にしか、これは頼めねえ。」

「・・・・」

「俺の大事な女のためなんだ。・・・・頼む。」

「・・・・・承知。」

数日のうち、戦が始まろうとしていた。
それが運悪く、が帰る日と重なってしまったのだった。
そのため政宗は、を最初に出会った場所へと連れていく役目を、小十郎に任せたのだ。
自らは勿論、戦場へと赴かなければならない。

には、戦の事は言うな。安心して帰してやりたい。」

「御意。」








こうして、あっという間に月日は流れ、別れの時がやってきた。
は涙を見せることなく、政宗は決して戦の事を出さず、お互いに笑顔で朝を迎えた。

「政宗さま。今まで、ありがとうございました。」

ぺこっと頭を下げる。

「おう。・・・・見送り、出来なくて悪かったな、。」

「・・・・いいえ!お仕事なんですから、気にしないでください。」

じっと二人見つめ合い、にこっと笑う。
くっと政宗がを引き寄せ、抱き締める。
もその背に腕を回すと、ぎゅうっと思いっきり抱きしめた。

「んっ・・・お前、力、強くなったか?」

あまりに強く抱きしめてくるに、政宗が笑いながら問う。

「感謝の気持ちがこもってるんですよ、政宗さま。」

言ってにっこりと笑う。

「Ha!そうか。」

ちゅっとの額に口付けを落とす。
は政宗の頬に、口付けを。

「・・・・・」

きゅうっと胸が締め付けられた。

これで。
最後。
もう二度と会うことはない。

「・・・・・お元気で。政宗さま。」

「ああ。・・・・元気でな。。」

じわりと涙が浮かんだが、はぐっとそれを堪える。
最後は、笑って別れたい。
思い出してくれる顔が笑顔であるように。

「――――」

ぎゅうっと抱きしめ合う。
互いの温もりを、決して忘れないように。


そうして、二人は別れた。
それぞれの世界に、戻るために・・・・。










ザクザクと雪の積もった山道を歩く馬が一頭。

日は傾き、西の空が薄らと赤みを帯びてきていた。

背にと小十郎をのせた馬が、“あの日”の戦場跡に到着した。

サクと土を、・・・そこに積もる雪を踏む。
今は真冬。
一面が真っ白に染められていた。

「・・・・寒い・・・・・」

ぶるっと体を震わせて、は辺りを見渡す。
あの時の惨状は、まるでなかったかのように、綺麗な白で覆われていた。

あの日―・・・

はここで、政宗と出会った。

様々な事があったが、今思い出せるのは、政宗の事だけだ。
そして、もう少しではこの時代からいなくなる。

「・・・・」

赤く染まってきた空を見上げて、この空のどこかに満月と彗星があるだろう事を、改めて思う。
一年間の滞在のはずが、半年になっていた。
政宗もそれを許してくれた。
自分の世界に帰れ、と。

「ありがとうございます、政宗さま。」

小さく言って、は小十郎を振り返る。

「小十郎さんも、ここまで連れて来てくださって、ありがとうございました。」

言って頭を下げる。

「ああ、気にするな。・・・・・さあ、早く帰る準備をするんだな。日が暮れる瞬間に、お前は眠っていなければならないのだろう。」

「はい。」

返事をして、はあの時と同じように、この大地に横になる。
仰向けになり、目を瞑る。
最後に見たこの時代の風景は、薄らと染まった空の赤だった。

「・・・小十郎さん。」

目を瞑ったまま、声をかける。

「・・・・・なんだ」

「今まで、本当に、ありがとうございました。私・・・・ここに来られて、良かったです。」

もう一度、会いたい人もいた。
せめて、お別れを言いたい人も。
でも、間に合わなかった。

「・・・・・・元気でやれよ。。」

小十郎がそう答えてくれた。

「・・・・はい。小十郎さんも、お元気で。」

みんな・・・・

幸村さん・・・・佐助さん、信玄さん・・・・

慶次くんに、小十郎さん・・・・・

そして・・・・・・・


政宗さま


・・・さようなら。お元気で・・・・








第二十二話






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