第十六話





その日は冬晴れの、爽やかな日だった。

仕事を終えた政宗に連れられ、は奥州の城下に来ていた。
この世界に来て、初めて二人で城下を歩く。
は嬉しくて、顔が緩みっぱなしだった。

ぴょこぴょこと歩く
の手の中には、綺麗な藍色の髪飾りがあった。
政宗がその色を気に入り、に買ってくれたものだった。
ふふふ、と手の中を覗いて顔を赤らめる。

「Hey!あまりはしゃぐな、転ぶぞ。」

後ろから声が掛けられる。
振り返ると、政宗が腕を組んでゆったりとついて来るところだった。
はしゃぐな、と注意する政宗も、どこか嬉しそうに見えた。
はふと足を止めて、政宗が追い付くのを待つ。
手が届く距離まで来ると、政宗はそっとの頭を撫でて微笑む。

「ありがとうございます、政宗さま。」

何度目だ?と言いたくなる“ありがとうございます。”に、政宗は笑う。

「貸してみろ、つけてやる。」

の手から髪飾りを取ると、後ろを向かせて、髪にさしてくれる。
そのまま後ろから手を伸ばし、の顎をとらえると、自分の方を向かせる。
政宗は優しく笑んで、そっと親指での唇に触れる。

「・・・・・ま・・・」

ゆっくりと近づいて来る政宗の顔。

「・・・cuteだな、。」

「っ―――」

そのまま、唇が触れる寸前。
ぴた、と政宗の動きが止まる。

「・・・・・?政宗、さま?」

目の前に、ただじっとを見つめる政宗がいた。

「・・・・・」

そしてちゅっと、の頬に口付ける。
顔を上げた政宗は、どこか寂しそうな、切ない顔をしていた。

「・・・・政宗さま・・・・?」

すっと頬を撫でて、その手が離れていく。
急に変化した態度に戸惑う。
すると、手を取られてくいっと引かれる。

「次は着物だ、。」

「え?」

前を歩く政宗が笑顔で振り返る。

「新しい着物を買ってやるって言ってるんだ。」

「あ・・・はい!」

嬉しそうに笑む政宗につられて、も微笑む。
少し小走りをして、は政宗の隣に追い付く。
と・・・・・


「ちょっとお待ちくださいな、そこのお二人。」

突然、背後から声が掛けられた。

「・・・え?」

振り向くと、そこには綺麗な着物に身を包んだ一人の女性がいた。

「?あの・・・どちらさまで・・・」

「・・・・・お久しゅうございます、政宗様。」

「―――愛姫」

「え?」
政宗さまの・・・知り合い?
愛姫・・・って・・・・どこかで・・・

「政宗様、戦でのお怪我はもう大丈夫なのでございますか?」

「・・・・ああ。」

ゆっくりと歩いて来る愛姫。
そして、に軽く頭を下げると、政宗の腕にそっと手を添える。

「私、とても心配しておりましたのに・・・・側室とお戯れとは・・・」

「え・・・」
側室って・・・・私の事?

「愛姫、こいつは側室じゃねえ。」

「まあ、ではどちら様で?見たところ、身につけている物はそれなりに高価なものとお見受けできますが・・・」

「あんたには関係のないことだ。それから、俺はあんたを娶るつもりはない。さっさと故郷に帰るんだな。」

娶る・・・?
政宗さまが・・・・・
愛・・・姫・・・・

「・・・・・・」

もしかして・・・・聞いたことある。
愛姫って・・・
歴史上だと“伊達政宗”の正室になる人じゃ・・・

「私は帰るつもりはございませぬ。幼きころからの約束があるではありませぬか。私たちの結婚は決められたことでございますれば。」

「それはもう終わった話だ。俺はあんたを娶るつもりはない。」

・・・・・どうして?
まさか・・・・・
私がこの世界に来た事で、歴史が・・・・

変わってしまった・・・・?





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