第十二話






ふわりふわり、とそれは落ちてきた。
まるで慶次を待っていたかのように。


「あ!雪ですよ、政宗さま!」

は振り向いて、政宗に声をかける。
その隣で慶次が空を見上げる。

「ほーんとだ!な?やっぱり酒を持ってきて正解だったろ?ちゃん!」

「慶次くんを待ってたみたいですね!」

戸を開け放たれた政宗の自室。
そこから続く中庭に、と慶次はいた。

「・・・・・・」

二人の騒がしい声を、政宗と小十郎は部屋の中から聞いていた。
雪に騒ぐ二人とは反して、彼等は仕事中なのである。

「どうだい、ちゃん、一杯!」

そう言って、慶次は手に持った酒を差し出してくる。

「ええ?私はいいですよ!未成年だし。」

「みせい・・・?なんだい?そりゃあ」

「あ・・・・えっと・・・」

聞きながら慶次は、の頭に積もった雪をハタハタと、はらってやる。

「・・・おい、てめえら」

「「え?」」

小十郎が呼ぶと二人同時に振り向く。

「え?じゃねえ!政宗様は今仕事中だ!静かにしねえか!」

子供のように騒ぐ二人に小十郎が声を上げる。

「くっ!あははは!」

「政宗様?」

「雪見て騒ぐなんてのは、ガキとお前らくらいだぜ。」

そう言ってゆっくりと立ち上がると、雪の積もり始めた中庭に下りていく。
ぐっと伸びをして、小十郎に声をかける。

「はー・・・。少し休憩だ、小十郎。」

雪の降る寒い中、ゆっくりと歩いて来る政宗に、はそっと寄り添う。
ほとんど傷は塞がったとはいえ、本調子でないのは確かなのだ。
そんな二人を見て、唐突に、

「・・・・恋ってのはいいもんだ。」

「へ?」

が振り向くと、慶次はにこっと笑って、政宗に持っていた酒をわたす。
政宗はそれをクッと飲み干して「何言ってやがる」と返す。

「いや、別に。あ〜、それにしても、やっぱ奥州はさっむいねえ〜。な?夢吉?」

懐に入っている夢吉が、寒そうにキキッと答える。

「・・・、わりいが上着、持ってきてくれるか。」

「あ、はい。」

政宗に言われてはその場を離れる。
慶次と二人、雪を見つめる政宗。

「・・・・なあ、独眼竜。」

「・・・Ah?」

「あの子、変わった子だねえ。」

「・・・・・・」

「奥州の子じゃない、と思うんだけど・・・。どこの国の姫さんだい?伊達政宗が惚れた女(ひと)は。」

「・・・その話はもう言うな。」

「なんでだい?恥ずかしがることはないだろう!祝言には呼んでくれよ、酒いっぱい持ってくるからさ!」

「祝言なんか挙げねえよ。あいつは・・・・実家に帰るんだ。」

「・・・なんでまた」

「・・・・・そうゆう約束だ。」

「でもさあ」

そこまで言って、政宗の“本気”の雰囲気に気付く。

「・・・・・・・」

慶次は何も言わず、酒を喉に通す。

「政宗さま。」

「おお、サンキュ。」

ぱたぱたと上着を持ってが駆けてくる。
一枚を慶次に渡し、もう一枚を政宗の肩にかけてやる。

「・・・あ」

ふと、は手を伸ばした。
政宗の眼帯に、解けずに雪が積もっていたのだ。
はらってやろうと手を伸ばしたところで、その手を政宗がぐっと掴む。

今までにないほど、強い力で。

「っ・・・」

「・・・、これには触るな。」

「あ・・・・ごめんなさい・・・」

急に冷たく言われ、そっと手を離される。
突然の拒否には戸惑う。

「政宗様、もうお入りになってください。」

縁側から小十郎に呼ばれ、政宗は仕方なし、といった感じで歩いて行く。

「お前らも、もう入れ。夕餉を用意させる。」

「は、はい・・・。慶次くん、行きましょう・・・」

「・・・ああ。・・・・・」

少し気落ちしたが、歩いて行く。
その様子を、慶次は後ろから見ていた。









第十三話






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