第十九話







呼ばれて、は縁側に座る政宗の隣に、腰をおろした。

晴れた日の午後だった。

庭は一面の雪化粧。
薄い青色の空を、白く雲が走っている。

くいっと肩を抱かれ、は政宗の胸に体を預ける。

肩を抱いていない方の政宗の手と、の手が重なり、互いの温かさを分け合う。
ふと、政宗はの手が赤く腫れているのに気付く。

「・・・・どうした、これ」

「え?・・・あ、えっと、火傷を・・・・」

「いつだ」

「えっと・・・ちょっと前、かな・・・お茶を、こぼしてしまいまして・・・・」

ちょっと前・・・・
それは愛姫と二人きりで話をした時の事だった。
の不注意で、愛姫に渡そうとしたお茶をこぼしてしまったのだ。

その時初めて、と愛姫はゆっくり言葉を交わした。
片時も、を傍から離さない政宗に、愛姫は“正室”を諦め、そしてその心の内を、に話してくれたのだ。

愛姫は笑って奥州を去って行った。
は何度も、心の中で謝った。
運命を変えてしまって、ごめんなさい、と。



政宗は、その赤く腫れた手をそっと包み、「まったく」といった表情で苦笑する。
その手を唇によせ、ちゅっと舐める。

「っま、政宗さま!?」

「跡が残ったらどうする」

そう言って、ちゅっともう一度舐める。

「・・・・・も、もう大丈夫ですから!」

ぐいっと無理矢理に手を引く。
ちゅっといって、政宗の唇が離れる。

「・・・チッ」

「チッてなんですか」

「なんでもねえよ。」

そう言って政宗は急に横になって、の膝の上に頭をのせる。

「わ!ま、政宗さま!?」

「少し寝る。」

「ええ?このままですか?」

「Yup!(もちろん)」

そう言って、目を瞑り、吐息がゆっくりしたものになっていく。

「・・・・もう・・・」

言いながらは政宗の髪をそっと撫でる。
愛おしそうに触れてくるその手が、心地よくて政宗は自然と微笑む。

「・・・・・・くっ」

「?」

くすくすと目を瞑りながら笑う政宗に、首をかしげる

「占い・・・・信じちゃいねえが、当たったみてえだな・・・。」

「・・・はい?」

政宗は、ぱちっと目を開けて、を見上げてくる。

「あんたが俺の運命を変えてくれる者だって事だ。」

出会った頃は、まさかこんなにも、彼女が愛おしい存在になるとは思ってもみなかった。
ただの興味本位だったのに、今では放したくないほど、可愛くて可愛くて仕方がない。

「・・・ありがとな。」

そう言って、政宗は優しく微笑む。

「え?」

「俺の前に現われてくれて。」

言うと、の顔が赤く染まる。

「・・な・・・何を・・・・」

優しい笑顔が、膝の上にあった。

「・・・・・・」

は自分から、顔を近付ける。
その唇に、触れようと・・・・

「政宗、さま・・・」

「・・・・」

しかし、政宗の指がそれを遮る。

「・・・・?」

「そこは・・・・だめだ。あんたを帰してやれなくなる。」

「・・・・!」

「・・・・Sorry.」

その顔がすごく真剣で、はううん、と首を振る。
と、政宗が体を起こす。
そのままを抱きしめてくる。
ふわりと、政宗の匂いが、を包む。

「政宗さま・・・・」

「ん?」

あと少しで、お別れ・・・・
だからせめて、この気持ちだけは・・・・

「好きです。」

伝えたい。





第二十話






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