第十一話







「・・・・政宗、さま・・・・・あの、失礼します・・・。」


伊達軍帰還のその夕方。
は政宗に呼ばれて、彼の自室に来ていた。
久しぶりの再会に、少し緊張する。

「・・・・・」

そろり、と戸を開けると、部屋の中央で布団に座り、医師に診てもらっている政宗の姿があった。

「っ――!」

上半身を裸に、包帯を巻かれている政宗を見て、はドキッとする。

か、入っていいぞ。」

「・・・・」

顔をほのかに赤く染めたまま、ぺこっと一つお辞儀をして部屋に入る。
ここ、というふうに指をさされて、は政宗の横に座った。

「・・・・ふむ。処置がよかったらしいですな。傷はだいぶ塞がりました。」

「そうか。ならいい。」

「それでは、失礼いたします、政宗様。」

医師は柔らかく笑って出て行った。
部屋に二人きり、取り残される。

「・・・・・・」

ドキドキと胸が鳴る。
何て声をかけようかと思っていると、政宗の方から声をかけられた。

「俺がいない間、よく逃げなかったな、。」

「あ、・・・・当り前・・・です。どうせ、帰れないんですから・・・」

政宗の姿に少し照れて、無愛想な物言いになってしまう。
しかし、いつも通りのを見て、政宗はくつくつと笑いながら、はだけていた着物に手を通そうとする。

「・・・っ・・・」

「あっ・・・大丈夫ですか?」

痛そうに顔を歪めたのを見て、は自然と手を貸す。
そっと着物を着せてあげると、いつのまにか政宗の顔が目の前にあった。
ドキンと心臓が跳ねる。

「・・・・目が腫れてるぜ。」

「―――」

隻眼がじっとの目を見つめる。

「・・・・俺がいなくてそんなに寂しかったか?」

言って、くつくつと笑う。

「そ、そんな事は――」

ない、とは決して言えなかった。
政宗が帰ってきてくれたことが、こんなにも嬉しい。
いつの間にか、の中で彼の存在が大きくなっていた事に気付く。

「約束は守っただろ?無事に帰ってきた。」

「――でも・・・怪我してます。」

「それは仕方ねえことじゃねえか?」

「でも、だめです!こんなに大きな怪我・・・・心配したんですから――ぁ・・・」

反射的に口元を押さえる
政宗はその言葉に、にっと笑う。
そしてそのまま、の体を、ふわりと抱き込む。

「っ、ま、政宗、さま?」

「俺は、あんたに会いたかった、。」

「え・・・?」

いつもより低いトーンの声が、耳に響く。

「あんたの事ばかり考えてた。こんな戦早く終わらせて、あんたに会いたいって。」

「っ・・・」

そう言って、ぎゅっとを抱きしめてくる。
トクントクンと政宗の心音が伝わる。

「私、も・・・・」

「ん?」

「私も・・・・・会いたかったです・・・。心配で・・・早く帰ってきてって、毎日思ってた、です・・・」

独りになってしまうかもしれない・・・。
政宗さまが死んでしまうかもしれない、と涙した。

「・・・・そうか。」

政宗は嬉しそうに言って、そっとの髪を撫でる。
の鼓動はドキドキと速くなり、だんだん息苦しくなってくる。

「政宗・・・さま・・・・」

きゅっと政宗に抱き付く。
その温もりに、匂いに、安心する自分がいた。

私・・・・
政宗さまの事・・・・・

「・・・・・・・」

それ以上は考えないようにした。
もし、そうだとしても、それはここにいる間、限られた時間しか許されなことなのだから。










それから半月。
政宗の傷もだいぶ癒えた頃。

は今日も政宗の所に来て、彼の身の回りの世話をしていた。
本来、女中がやる仕事だが、私がやる、とが言い出したのだった。

今日は筆頭としての仕事を手伝っていた。
あまり体を動かせない政宗に代わり、書面を渡したり、筆の用意をしたりする。

、それを取ってくれ。」

「あ、はい。」

パタパタと政宗の周りを歩く。
ほとんど静かに控えて、声をかけられた時に動くことしかしていなかったが、政宗の手伝いが出来る事が少し、嬉しくもあった。

「・・・・」

自然と顔がゆるんでしまう。

「どうぞ、政宗さま。」

「ああ、サンキュ」

書面から目を離さずに礼を言う政宗。
その横に置いてある茶がなくなっていることに気付き、は茶碗を持って立ち上がる。

・・・・と、廊下から足音が近付いて来るのに気付いた。

「失礼いたします、政宗様。」

小十郎だった。
障子越しに頭を下げる。

「・・・なんだ、どうした。」

筆を動かす手を止める政宗。
つられて、も廊下の方を見る。
障子に小十郎の影が映っていた。

「お客人が、来ておりますが。」

「客?そんな予定入ってたか?・・・誰だ」

聞いてるうちに廊下をドタドタと歩いてくる音が聞こえてきた。
そのうちに威勢のいい、大きな声が響いてくる。

「なんだなんだ、いるんじゃねえか独眼竜!」

「!門の所で待っていてくれと―」

声が戸の前で止まる。
小十郎の制止する声を遮って、戸が勢いよく開け放たれた。

「いいじゃねえか、せっかく遊びに来たんだし。ほら、酒も持ってきた!雪見酒と洒落込もうぜ!な、伊達男!」

「・・・・・・はああ・・・」

色鮮やかな着物に、頭には羽根。
その派手な姿を目にして、政宗はため息をついた。

「え・・・だ、誰ですか?」

「あれ?見ない子がいるなあ。俺は前田慶次!こっちは夢吉。以後、お見知り置きを!」









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