第一話
気がつくと、目に映ったのは地面だった。
そこに触れている手や、頬にその感触を感じる。
だがそれは、先程まで寝ていたはずの屋上の固いコンクリートではなく、しっとりと水分を含んだ土だった。
高須は高校二年。
今朝、学校に着いたのは九時十分だった。
授業の途中で教室に入るのも躊躇われたため、一時間目は屋上で昼寝をして過ごしていた。
目を開けると・・・・今の状況になる。
は地面に横になったまま、目線で辺りを見回してみる。
「?」
しかし、夕暮れなのか薄暗くてよく見えない。
ふいに、異臭が鼻をついた。
今まで嗅いだことのない、むせかえるほどの生臭い空気が、の体を包んだ。
「うっ!ゴホッゴホッ!」
せき込みながら上体を起こし立ち上がる・・・・と、そこにはこの世のものとは思えない地獄絵図が広がっていた。
「!!?っ――――」
夕焼けに、どす黒い赤が輝き、おぞましい数の死体があちこちに散乱している。
その中には、もぞもぞと体を動かし唸っている人――らしき影もあった。
は見開いた目を瞬きさせることなく、一気に全身の力が抜け、ドサッとその場に座り込んでしまう。
「うっ・・・ゴホッゴホッゲホッ!」
腐臭に血の匂い、散乱する死体。
見たこともない惨状に、吐き気が襲ってくる。
「ゲホッゲホッおえっ・・・!」
「おい」
突然、背後から低い男の声がした。
びくっと体が反応する。
口元を抑えながら振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
青い甲冑に身を包み、片目を眼帯で隠した男。
まるで変なものを見るように、に視線をよこす。
「・・・なんだ、てめえは。どこから現れやがった。」
その手には刀らしきものを持ち、にもわかるほどの殺気を放っていた。
その兜の先についているのは、弦月の飾り。
「政宗様」
声がして、眼帯の男の背後から、もう一人男が現れる。
「・・・女?先程はこんな女いませんでした。どこから・・・?」
「・・・・わかんねえ。振り向いたら現れやがった。」
なにやらぼそぼそと話す二人の男。
はそんな事はどうでもよかった。
今はただ、気持ちが悪かった。
「うっ・・・・ゴホッ・・・ハアハア・・・・・」
臭気に意識が遠のく。
そのまま意識が途切れ、その場に倒れる。
政宗は不思議なその娘を見て、昔のことを思い出していた。
幼い頃、まだ母に愛されていたころの話だ。
「・・・そういやガキの頃、占い師とかやらに言われたことがある。」
「・・・・政宗様?」
「今年のこの日、俺の運命に変化を与える者が現れるってな。」
「・・・・・まさか」
ニッと笑う政宗。
「小十郎、その女連れてこい。」
「政宗様!まさか本当にこんな得体の知れない者を?」
「Ha!ただの女だ。危険なんかねえよ。」
「しかし!」
「・・・・別に占いを信じてるわけじゃねえ。だけど・・・」
言って、政宗はを見る。
「興味深いと思わねえか?変な着物来た女が、突然戦場に現れるなんてよ。しかも偶然とはいえ、占いで言われた日にだ。・・・どこぞの使いだったとしても、調べる必要がある。」
そう言う政宗の左眼は、揺らぐことがなかった。
その眼を見て、小十郎は小さくため息をつく。
「・・・わかりました。政宗様がそうおっしゃるなら。」
ニッと不敵な笑みを浮かべて、政宗は笑う。
「・・・しかしもし、この女が怪しい者と知れれば。遠慮なく斬らせていただきます。」
「Ok。任せたぜ小十郎」
第二話
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