第八話






「わあ!」

城下は賑やかに栄えていた。

政宗とは、幸村に案内されながら、甲斐の城下に来ていた。
いきさつは、こうである――



今朝、信玄に呼ばれたは、政宗と共に広間に向かった。
入ると、そこには信玄と幸村が待っていた。

「申し訳なかったでござる殿!」

入るなり、幸村はに向って、ガバッと身を伏せる。

「え!?何が、ですか!?」

驚いて幸村に聞くと、顔を伏せたまま

殿が争い事が苦手とは知らず、この幸村、取り返しのつかぬ事を!」

「へ!!?」

「・・・・昨日のことか。大げさな奴だな。」

政宗の言葉で、昨日、体調を崩した時の事を言っているのだと気付く。

「ええ!?そ、そんな!顔を上げてください幸村さん!そんな事、気にしないでください!」

「いや、しかし―――!」

「いいんです、いいんです!私がひ弱すぎるんですから!」

両手を横に振りながら必死で言うと、やっと幸村が顔を上げる。
その顔は、申し訳ない、という感情が溢れていた。

「幸村。」

「はい、お館様」

信玄に呼ばれて、幸村は居住まいを改める。

殿の体調も戻ったようじゃ。城下を遊覧してきてはどうだ。案内してやるがよい。」



――と、いうことで。
三人はこうして城下を歩いているわけである。




城下はと言うと、昼時だからか、あちこちからいい匂いが溢れていた。
はきょろきょろと町の様子を見ながら、後ろからついてくる政宗と幸村に話しかける。

「あ!あっちのお店は何ですか!?」

言い残して店の方に走っていってしまう。

「!おい、!」

ふらふら走って、少し先の店の前で、中を覗きこんでいる。

「ったく、あの馬鹿。聞くだけ聞いて走っていきやがって。子供か。」

「ははは!殿は可愛らしいでござるな!」

「Ah?」
可愛らしい・・・?

「羨ましいでござる、伊達殿。あんな女性が側にいてくれて。」

「・・・・・お前はあいつの奔放さを知らねえんだ。」

「昨夜、佐助に聞いたのだ。」

「What?何をだ。」

殿は、某の目が綺麗だと言う。」

ぴくっと政宗が器用に、片眉を上げる。

「おい、まさかそれ本気にして――」

「それは、伊達殿の目に似ているからだ、と。」

「・・・・・・・・・は?」

思いがけない言葉に間抜けな声を出してしまう。

殿が言っていたそうだ。伊達殿の目は力強くて綺麗だ、某の目も伊達殿に似ている、と。」

「・・・・・・・・・・・・」
つまり、それはなにか?綺麗なのは、俺の目――

「きっと殿は、伊達殿の目が好きなのでござろうな。」

「っ・・・何を――」

「あ!あの店の団子は旨いのでござる!某、買ってくる故、殿を頼み申す!」

「は?おい――!」

政宗の言葉を待たず、幸村は団子の店へと走っていってしまった。

「ったく・・・とそっくりだな、あいつ。」

取り残された政宗は、頭をガリガリと掻きながら、ため息をつく。
そして、のもとに歩いて行く。
はまだ、先ほどと同じ店の前にいた。
どうやら、こちらも甘味の店らしい。
食べたそうに中を覗いている。

「・・・・」
最初は元の世界に帰りたがってたが・・・・・



「あ、政宗さま。」

呼べば、笑顔のの顔がこちらを振り返る。

「・・・・もう慣れたか?こっちの世界には。」

滞在を一年間と決めたからか、逃げる素振りも見せず、前よりよく笑うようになった気がして、政宗は聞いてみた。

「ん〜、そうですね。楽しんでます。」

「は?」
楽しむ?

「・・・どうせ一年間帰れないんですから、思いっきり今の状況を楽しもうかと思いまして。」

「・・・・楽しむ・・・か。・・・・・」

「・・・駄目、ですか?」

言いきった割に、自信なさそうに聞いてくるが面白くて、政宗は小さく笑う。

「そんなことは言ってねえ。It might be good.(いいんじゃねえか。)」

言うと、がにこっと笑った。

「・・・・・」
俺の目が好きねえ・・・・。
「物好きもいたもんだな。」

呆れたようにいいながらも、その顔には笑みがこぼれていた。

程なくして幸村が戻ってくる。
団子を見て喜ぶに、その様子を見て呆れる政宗。
あとは三人で団子をつつき合う。


明日の朝には、奥州へ向けて出発する予定だ。







第九話






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