第五話





秋も深まり、冬の気配が見え始めた頃。

奥州米沢城。

その日は、城下で買ってきた団子を手に、政宗の所に向かっていた。
奥州を統べる者として、戦以外の仕事も多いらしく、自室で書面に向かっている事が常だった。
午後にはそのほとんどが終わり、休憩時間となる。
その時間を見計らって、いわゆる、“おやつ”を運ぶのが、ここでのの仕事だった。
トタトタと廊下を歩き、戸の前まで来て声をかける。

「政宗さま」

「・・・か。入れ。」

許可を得て、戸に手をかける。

「失礼します。」

すっと戸を開けて入ると、政宗が机の前で伸びをしていた。

「今日は、お団子を買ってきました。」

「・・・・一人では行ってねえだろうな。」

「はい。小十郎さんがついて来てくれました。」

何日か前、一人で城下に買い物に出た時に、は酔っ払いに絡まれてしまった。
運よく、たまたまそこに居合わせた伊達軍の兵に助けられたのだが、それ以降、一人で出歩くのは禁止にされてしまった。
政宗いわく、
「余計な面倒事を増やされるのは迷惑だからな。」
とのこと。

「小十郎がついて行ったのか。・・・・あいつ、お前には甘いよな。」

「はあ。・・・・」
甘い・・・のかな・・?

ここに来てから、ひと月。
だんだんに政宗の事が知れてくる。

殺気放ちまくりで、目つき悪くて怖そうだけど、実は優しくて、民を一番に思っている、とか。
多分、そうでなければ人の上に立つことなど出来ないんだろうな、とは思った。




しばらく二人で話をして、政宗が、さて、と立ち上がる素振りを見せる。
剣術の稽古の時間らしい。
はそれに気付いて、先に立ち上がる。

「あ、じゃあ、私はこれで・・・・」

立ち上がって廊下に続く戸を開ける。
と、・・・・頭上から急に声がした。


「へえ〜。独眼竜の旦那のとこは、こんなに可愛い女中がいたんだー。」

「!!?」




突然、頭上からの声。
はきょろきょろとあたりを見回す。
と、目の前が何かに遮られた。
ビクッと肩を揺らすの眼前。
整った顔が、覗き込んでいた。

「武田軍真田忍隊、猿飛佐助。よろしく。」

「!!!っきゃああああ!!!」

あまりに驚いて、よろけてそのまま、後ろに尻餅をついてしまう。

「あれ、ごめんごめん。そんなに驚かせるつもりはなかったんだけど。」

飄々と笑ってのける佐助。
その姿を見て政宗は盛大にため息をつく。

「はあ・・・何しにきた甲斐の忍。つーか、勝手に人の城に入ってくんじゃねえよ。」

「いや〜つい。職業病ってやつー。」

へらへらと笑って、おじゃましまーす、とか言いながら政宗の方に歩を進める。
座り込んでるの前に膝をつくと、にこっと笑う。

だ、誰?忍?って・・・・忍者?

「名前なんてゆうの?」

「へ・・・?」

「うちの旦那にも教えてあげなきゃね。独眼竜の旦那はかーわいい女中を連れてるんだーって。」

「かっ・・・」
可愛いって・・・・

「テメッ、何言ってやがんだ!〜〜それより、何しにきた!要件を言え!」

「あ、そうだ。俺様、今仕事中なんだった。」

そう言って懐から何やら取り出す。
出てきたのは

「・・・・手紙?」

が言うと佐助はうん、と笑う。

「独眼竜の旦那にね。うちの大将から。」

「大将・・・??」

いつの間にか二人の近くまで来ていた政宗が、その手紙をぱっと取る。
びりっと封を破いて中の文字に目を通す。

「・・・・・・・酔狂な野郎だぜ、真田幸村。」

「え?」
真田幸村・・・?って・・・まさか、あの!?

「大将から直々にお願いなんだ。頼むよ〜旦那〜。真田の旦那、最近退屈しちゃってるみたいなんだよねー。だから、たまには手合わせに来てほしいって。」

「チッ。そんな酔狂な奴は前田の色男だけかと思ってたぜ。あほらしい、俺は行かねえぜ。そんなことのために何で俺が―」

「政宗さま・・・」

「Ah?なんだ。」

「私、行きたいです。」

「「・・・・・は?」」

唐突なに、二人が声を合わせる。

真田幸村・・・・
戦国武将・・・
会いたい
どんな人なんだろう!
「私、真田幸村さんに会いたいです!」

「「・・・・・・・・・え?」」


かくして、と政宗は甲斐に向かうこととなった。

奥州を出てから数日後、二人は甲斐に入る。





第六話






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