第十八話





――婚儀を延ばしましょうか


「・・・・What?」

急なの言葉に政宗は眉をひそめる。

「・・・・なんでだ?結婚が、嫌になったのか?」

静かに問うてくる声には首を振る。

「婚儀は、いつでも挙げられます。今は・・政宗さま、お仕事の事を一番に考えてください・・。」

婚儀を延ばせば仕事がもう少ししやすくなる、仕事がひと段落ついてからでも婚儀は挙げられる、そう考えてのことだった。

「・・・・・・・延ばしたいのか・・・?」

「え・・?」

「あんたは俺との結婚を延ばしたいのか?」

「・・・・延ばしたくは、ない・・・ですけど・・・」

「なら予定どおりでいいだろ?」

「・・・・でも・・・」
それじゃ・・・お仕事大変なまま・・・

「・・・・・」

その先を答えないの頬を政宗はそっと撫で、じっと見つめてくる。

―――思っている事を全部話してくれ、と言った約束が、の心をよぎる。

「・・・・私・・。」

「・・・」

「私、だって、・・・迷惑をかけたくないから・・・」

「・・・迷惑?」

「お仕事の邪魔をしたくないんです。もっと政宗さまの役に立ちたいから――。」

国の事も、この時代の事も何も知らない、縫物などの身の回りの事さえ満足にできない自分が、政宗さまの為に出来る事・・・・。

―――せめて少しでも政宗さまの負担が少なくなるように。邪魔をしないように。だから―――

「政宗さまだけ忙しいのは嫌だから・・・。」

「―――・・・・」

笑顔で言えば、政宗が片手を自身の顔にあてがった。
突然の行動には動揺する。

「え、あ、政宗さま?どうし――んっ・・・」

途端、顎を掴まれて政宗の唇が強くのそれに押しつけられた。

「ふ・・・」

「・・・・・・」

ほんの少しだけ唇を離すと、すぐに違う角度で口付けられる。
肩を抱かれ息が出来ないほどに、強く。

「っ・・・・・はあはあ・・はあ・・・」

口を放されると目の前に政宗の顔があった。
その顔はまるで苦しいかの様に歪んでいた。

「あんたはなんで――――」

そこまで言って政宗はもう一度深く口付ける。

「ぅ・・・ん・・・・・・・・」

「・・・・」

次に見た政宗の顔は、切なく微笑んでいた。

「・・・・I want you.(抱きてえ)」

「!?」

政宗はぎゅうっと強くを抱きしめる。
心臓がバクバクと大きく脈打った。

「・・・

「・・・・は、はい・・・・」

「あんたはそんなこと考えなくていい。」

「・・・・・・・でも・・・・」

「Do not say such a thing.(そんな事を言うな)。」

「・・・・・」

声音に懇願の色が含まれていた。

この音には覚えがある。
政宗が自分を受け入れて欲しい時。彼はいつもこの声音を出す。

婚儀の延期・・・これは―――政宗さまを拒むことになるのだろうか・・・

「あんただけだ」

「・・・え?」

「もう俺はあんたの為だけに、あんたが笑ってくれるように全てをやってる気がする。」

そんな自分がおかしいのか、政宗はくつくつと笑う。

「・・いいか。」

「はい」

「仕事は大丈夫だ。小十郎や他の臣下もいる。」

「・・はい」

「あんたが俺の事を思ってくれるなら・・・」

「・・・・・・」

そこまで言って、政宗はの顔を覗きこむ。


「早く、俺の妻になってくれ。」


「っ――――」

ドッキン、と。

それは苦しくなるほどに心臓が跳ねた。

「仕事で寂しい思いをさせるかもしれねえ。でも俺は一番にあんたを考えて、想ってる。」

「―――・・・・」


朝・・・置いて行かれたことが寂しくて。

夜、独りなのは不安で

嫉妬にやかれて・・・・。


でも彼の心は、私の元にある。

寂しく感じたのは、不安が先立って、私の心があなたの元になかったからかもしれない。


「私も・・・・政宗さまを一番に考えてます。誰よりも一番に・・・。」

言えば嬉しそうに政宗が笑む。

「・・・・I know.(知ってる)」

言ってふんわりと政宗はの体を抱き締める。

「・・政宗さま・・・・」

ぎゅう、と二人強く抱きしめ合った。



柔い夜の風が、そこに春の香りをのせて吹き抜ける。

もう少しで、桜が咲く時期がくる。

「・・・・・」

・・・そうすれば


私は、あなたの妻となる。











第十九話