放課後の恋人
放課後の図書室。
ガラリと戸を開けて入ってきたのは珠紀だった。
一緒に帰る約束をしていたため、祐一がいそうなここへやってきたのだ。
本棚の間を覗きながら奥へと進んでいくと案の定、祐一はいた。
窓際の少し低くなっている棚に寄りかかり、俯いている。
祐一に近付いていくと、すうすうと寝息が聞こえてきた。
珠紀は声をかけようとしたが、少しためらう。
そういえば、初めて祐一先輩と会ったのもここだったなあ・・・
あの時、夕日に照らされた祐一の顔がすごく綺麗で見とれてしまった。
今も初めて会った時のように祐一に見とれてしまっている。
男の人なのに、こんなに綺麗なんて・・・・すごい・・・
間抜けな感想を抱きつつ、じっと見つめる珠紀。
整いすぎて少し冷たそうに感じる祐一は、実はすごく優しくて温かい人だということを知った。
今では優しい微笑みもたくさん見せてくれて、それが嬉しくていつの間にか祐一の傍を離れられなくなっている。
いつも祐一を思い、傍にいたくて触れたくて、こうして一緒に帰れることが今の珠紀にとって一番嬉しいこと。
ぼうっと祐一に見とれてどのくらい時間が経っただろうか、カチカチと時計の音だけが図書室に響く。
と・・・・、
クスッと祐一の口元に笑みが浮かんだ。
え?っと思っていると、眠っていた祐一は微笑みながら顔を上げる。
「珠紀・・・いつまでそうして俺を見ているつもりだ?」
「え!?」
驚く珠紀を見て、くすくすと祐一は笑う。
「お、起きてたんですか!?ひどいです、先輩!」
「すまない。あまりにじっとこちらを見ているから。」
かああーーっと顔が赤くなる珠紀。祐一は寄りかかっていた棚から離れて、珠紀の近くに寄ってくる。
「う〜・・・だって・・・・綺麗・・・で・・・・・・つい・・」
珠紀は恥ずかしさのあまり、独り言のように言い訳をする。祐一は深く微笑みながらそっと珠紀の頬を両の手で包む。
「すまない。俺を見つめる姿が可愛くて寝たふりをしていた。」
「かっ―、かわいっ・・・・て・・・」
すでに赤い珠紀の顔が、真っ赤になる。
祐一はくいっと珠紀の顔を上向かせると唇を重ねる。
角度を変えて口付けると、次第に珠紀の息が上がってくる。
「・・・ふ・・・・んっ・・・」
するりと祐一が珠紀の首元に移動すると、そこを強く吸う。
「あ、せんぱ―」
ちゅっと唇を離すと、首元に赤い印がつく。
「大丈夫だ。髪で隠れる。」
祐一はそう言ってにこっと微笑む。
「もう、駄目ですってば!見えちゃったら恥ずかしいんですからね。」
「俺は見えた方が嬉しい。」
「も〜!」
最初に出会った時には考えられない時間。
こんなにも優しく、温かい時間が祐一と過ごせる。
怒ったように言いながらも珠紀は微笑み、祐一の手を握る。
「先輩、帰りましょう。」
傍にいたくて、触れたくて
「・・・ああ。」
いつでも祐一を思う。
二人、並んで図書室を出る。
二人でいられることが、今一番の幸せ。