共に在る約束






闇の中。・・・・何も、見えない。
でも心だけが、締め付けられるように苦しかった。

暗闇の中にある、ただ悲しいという感情。
それだけが取り残されたように心の中にあった。

・・・・待って

苦しい、苦しい、痛いほどの切なさ。

待って・・・置いていかないで・・・・・みんな、死なないで、行かないで・・・お願い・・死なないで!



「・・千鶴」

ハッと目が覚める。

「・・・・・・あ・・・・」

目の前にあったのは、明け方の薄闇に浮かぶ千景の顔だった。
片肘を立て、少し布団をめくった状態で、眉をひそめ千鶴を覗きこんでいる。
“心配している”という表情。
あまり表情を出さない彼にしては珍しいことだ。
そして千景の指が優しく千鶴の頬に触れると、つ、とそこに流れる涙を拭ってくれた。

「・・・・嫌な夢でも見たか」

低くて落ち着いた、優しい声が落ちてくる。
途端に胸が苦しくなった。

「ぅっ・・う・・・・・・」

両手で顔を覆って、千鶴は本格的に泣き出してしまった。
闇の中にあった悲しさが体を覆う。
その様子を見て千景は千鶴の体をぎゅっと抱きしめる。
跳ねる息と一緒に体も震えていた。

「う・・・ひっく・・うぅ・・・・」

彼等の最期を、たまに夢に見る。

新選組の一員として過ごした日々。
しかし最後は、共に在れなかった。

死んでほしくなかった・・・せめて生きていてほしかった。

「・・・千鶴」

「ぅ・・・・ひっく・・・」

「千鶴・・・」

千鶴は千景の背に腕をまわしてしがみつく。

「千景さ・・・千景さん・・・・・ぅ・・・千景さんは・・ひっ・・・い、行かないで・・・」

どこに、とは言わなかった。
でも千景には彼女の恐れるものがわかる。
千景の故郷に来てからも、千鶴は時々、彼等を思い出して泣いていたから。

「行くはずがないだろう。・・・お前を置いて、どこへ行けという。」

千景は、ちゅっと千鶴の前髪に口付けを落とし、そっとその髪を撫でる。
そのうちに、千鶴の呼吸がだんだんに落ち着いてくる。

「・・・・・」

・・・・いつの間にか、その呼吸は寝息に変わっていた。
抱き込んだまま千鶴の顔を見やると、頬には涙の跡が残っていた。
優しく拭ってやると、「ん」と言って千鶴はその手にすり寄ってくる。

「・・・千鶴・・」

優しく優しく、頬を撫でる。

「・・・・大切なものを、置いていけるはずがない、この俺が。そんな事が出来ようはずがない・・・。」

千鶴を置いていった彼等。
彼女の心が一時でも彼らに奪われる事が、少しだけ悔しかった。

「俺は、死ぬその時まで・・・共に在ろう。」