想い、触れて





風間と久々の再会。
外の雨は、勢いをさらに増していた。
とりあえず今日は千鶴の家で一泊していくことを決める。

「風間さん、おなか空いてませんか?」

千鶴は台所に立ちながら、居間のほうにいるであろう風間に声をかけた。
何の返答もない。

「ちょっと待っててくださいね、今なにか作りますから。」

そう言いながら、野菜をまな板に載せる。
包丁でとん、と切り始めると、右手の手首を軽くつかまれた。
野菜の上にある左手の手首も同様につかまれる。

「え、ちょっ・・風間さん・・・!」

後ろから両腕をつかまれた状態。耳のすぐ横に風間の息を感じる。

「・・・故郷を出てから、何も食べてないな。」

そういえば、という感じで話す風間。

「ええ?そんな・・・すぐ作りますから、邪魔しないでくださいよ。」

恥ずかしくてつい出た言葉。

「少しくらい食べなくても平気だ。」

それより、と言って千鶴の腕ごと、後ろから抱きしめる。

「もう少し、触れていたい。お前はすぐ離れたがる。俺は、今日はこのまま、お前を離したくない。」

風間は、ちゅっと千鶴の耳に唇をよせる。
んっ、と声が漏れる。

「抱いてもいいか?」

息の声で風間が問う。
強く抱きしめられる千鶴。

「ん・・・・・だ、・・・」

「・・・・・千鶴・・・」

「だ、・・だめです、今日はっ・・・」

抱きしめる腕が少し緩くなる。

「・・・・・・・・なぜだ」

千鶴はゆっくり振り向く。眉をよせた風間が、じっと千鶴を見つめている。

「えっと・・・・その、今日は・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

無言で待つ風間。

「今日は・・・ゆっくり風間さんと、お話がしたい・・・です。ずっと・・・会いたくて・・・・・・だから・・」

真っ赤になって、たどたどしく言葉を綴る千鶴を見て、風間はため息をつく。
それを聞いて、千鶴は申し訳ない気持ちになる。

「ご、ごめんなさい」

「謝るな」

雨の音が、響く。
ふう、と息をはくと、風間は千鶴の手をとり居間に向かう。

「あの・・・風間さん・・・?」

「・・・・・なら、今日はこのまま一夜を明かす。」

そう言って風間は、自分の足の間に千鶴を座らせ、後ろから抱きしめる。

「話をしろ。お前がしたい話を。今日はそれで我慢してやる。」

「・・・・・・・いいんですか?」

「・・・・・・仕方ないだろう。」

千鶴は嬉しそうに笑ってから、ありがとうございます、と言って風間に抱きつく。
風間は両腕で、そっと千鶴の体を包んでやる。

二人でいられることが、互いの体温を感じられることが、今一番の幸せ。
そしてそれは、まだ始まったばかり。