名前を呼べ





(このお話は「名前を呼ばせて」の続きになっています。先にそちらを読むことをお勧めします。)



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朝、目を覚ますと、そこには風間の顔があった。

チュンチュンと窓の外からは鳥の声が聞こえてくる。

「・・・?」

千鶴は、今自分がどうゆう状況なのか分からず、首をかしげる。

「あれ・・・・?」

目の前で寝ている風間を起こさないように、首だけを動かして辺りを見渡す。

「・・・・?居間?」

どうやら、二人抱き合ったまま居間で眠っているらしい。

昨日、たしか・・・風間さんのお酒に付き合って・・・・それから・・・・?
「・・・・・」

どうやら記憶が飛んでいるらしい。
お酒を口にした後の事は何も覚えていない。

「・・・えっと・・・?どうしたんだっけ・・・・?」

ぼそっと口にすると、ふ、と風間が目を開けた。
ゆっくりとその目が千鶴をとらえる。

「あ・・・・・おはよう、ございます、風間さん・・・。」

起しちゃいましたか?と聞くと、風間はあふっと、あくびをする。
そのまま、くいっと千鶴の体を引き寄せる。
少しだけ離れていた二人の体が密着する。
風間は、千鶴の頭を自分の胸元に抱え込む。

「あの・・・風間さん?この状況は、一体・・・」

どうして居間で寝ているんでしょうか?と聞こうとすると風間がため息をつく。
千鶴の前髪が息で揺れる。

「戻ってる・・・・」

呆れたように言った風間の言葉に「は?」と千鶴が返す。

「な、なにが、ですか・・・?」

「・・・・・」

少しの沈黙の後、風間が「呼び方だ」と言った。

「昨夜はあれ程、情熱的に俺の名を呼んだというのに・・・・」

「はい?」

言ってる間に、ごろんと体を転がされて仰向けにされる。
耳の横に肘をつかれて、風間が千鶴を見下ろすような体勢になった。

「今日こそ、俺の名を呼んでもらうぞ、千鶴。今度は起きている時にだ。」

そう言って、艶やかに笑む風間に、ドキンと胸が鳴った。
寝起きだからか、今の風間はすごく色っぽい。

「早く呼べ、千鶴。」

「え、・・・あ・・・あの・・・・」

顔が真っ赤になっていくのがわかる。
ドキドキと鼓動が強く打つ。

「・・・・・」

色っぽさを含んだその目が、千鶴を見つめてくる。

「あ・・・」

名前を・・・・呼びたい。
本当は、ずっと前から・・・・。

千鶴は、ごくんと息をのむ。

薄らと口を開くが・・・・・なかなか、“千景”が出てこない。
何度か口をぱくぱくさせて、顔を真っ赤に染める千鶴。
その様子を見て、風間はふう、と息を吐く。
そのまま、ゆっくりと千鶴の耳元に唇を近付ける。
そして、息だけの声で

「・・・・早く・・・呼んでくれ、千鶴。」

そっと囁かれた声に、千鶴の体がびくっと反応する。
風間を見上げれば、待ち焦がれた、という顔をして見つめてくる。
その様子に、まるで導かれるように、千鶴の口が動く。

「ち・・・・ち、かげさ、ん・・・」

呼んだ瞬間、千景がにこっと微笑んだ。

「――――・・・」

それが嬉しくて、もう一度呼ぶ。

「千景・・・さん」

千景は「ああ。」と返事をして、ゆるゆると千鶴の頬を撫でる。

「千景さん・・・」

「・・・ああ。なんだ?千鶴」

そう言って、優しく唇を重ねてきた。
合間に名を呼べば、優しく返事を返してくれる。

何度も口付けをして、何度も名を呼び合って・・・・

「千景さん」

ようやく・・・・呼べた・・・。

千鶴はこの幸せを抱きしめるように、千景の背を抱きしめた。