花に願う幸せ





雪深い里。
千鶴と風間は、探し物をしていた。
冬に咲くと言われる、白い小さな花。
それを二人で見つけられれば、いつまでも幸せに暮らせる、というもの。

「・・・・・ん〜・・・ないですねえ・・・。」

手を赤くしながら雪をかき分ける千鶴。
中腰の彼女の後ろを、風間はさくさくと歩いてついてくる。
ふう、と一つため息をついて遠くを眺める。

「風間さんも探してくださいよー。」

千鶴は屈んだまま後ろを振り向く。

「いつになったら・・・・・」

あとの言葉が聞こえなかった。

「え?なんですか?」

「・・・なんでもない。」

ふーん、と言いながら少し口を尖らせて、また雪をかき分け始める千鶴。
その手はさらに赤くなっている。
はあはあ、と息をかけながら雪を分ける。

「・・・・・・・」

赤いその手を風間が取る。

「もう諦めろ。」

「嫌です。絶対に見つけます。」

千鶴は、強く風間を見つめたあと、また視線を雪に向ける。

「・・・・二人で見つければ・・・・・ずっと仲良く暮らせるんですよ?」

雪を見つめたまま言う。

「・・・・・・そんなもの見つけたところで、何も変わらないさ。」

・・・・そうかもしれない。でも、愛しい人とずっと幸せでいたい。
そのために少しでも、そうあるために少しでも、何かをしたい。

「・・・・・風間さんは・・・・・・そう思わないんですか・・・・?」

声に寂しさが乗る。

「・・・・・・」

風間はしゃがみ込んでいる千鶴から視線を放す。
眼の端に何かが映った。
右の方向。5、6歩ほど歩いた雪の中に、小さな花びらが覗いている。
千鶴が必死になって探しているもの。
風間はその花を見つめたまま口を開く。

「・・・いつになったら・・・風間、と呼ばなくなる。」

え?と千鶴が顔を向ける。
その顔を見て、にこ、と風間は笑う。

「・・・・もう夫婦なのだろう。・・・千鶴。」

あ、と小さく声を上げる。
まあ、いいさ。と言って風間はふいに歩き出す。
千鶴は不思議に思って、風間を目で追う。

「俺は、そんなもの見つけなくとも幸せになれると思うがな。」

さくさく、と歩いたところで風間が振り向く。

「この辺りを探すぞ。・・・来い。」

伸ばされた手をそっと取る千鶴。
この先にはきっと、幸せが待っている。