触れて、愛して





朝、目が覚めると目の前に風間の顔があった。

昨夜座って抱き合ったまま、二人で眠ってしまったらしい。
風間は千鶴を抱きしめたまま、すうすうと寝息を立てている。
起きているときとは違い、穏やかな顔。
千鶴は、すこし幼く見える彼の顔を見て、やわらかく微笑む。
ふと、目の前の唇に目がいく。
初めて唇を重ねたとき、その口付けはすごく優しかったことを思い出す。
起きてしまわないか心配だったが、そっと指で唇に触れてみる。

「・・・・・・・」

すうすうと寝息が聞こえる。
急に心臓が強く脈打つ。顔が赤くなったのがわかる。

「あ・・・・・・・・あの・・・・・・」

声を上げると、風間が薄く目をあける。にこ、と意地悪そうな笑み。

「なんだ・・・・。口付けを、してくるのかと思ったのだが。」

「―・・・・起きて、たんですか?」

「・・・・・さあな。」

「あ、ちょっと・・・や!」

風間の右手が千鶴の太ももを撫でる。

「もう、風間さん!・・・んっ」

抵抗してる間に、風間の唇が千鶴のそれをふさぐ。
普段の風間からは想像が出来ないほど、口付けが優しい。
それに目眩がして、一気に力が抜けてしまう。
ちゅっと唇を離すと、風間はそっと千鶴を押し倒す。
千鶴の両手を、自分の両手でそれぞれ畳に押し付ける。

「・・・・風間さん・・・あの―」

顔を赤くして千鶴が言う。

「昨日は。あれで我慢してやると言っただろう。」

その言葉にさらに顔が赤くなる千鶴。

「もう夜が明けた。昨日ではない。」

ええ!?という顔をして必死でその場から逃れようとする千鶴。

「ま、待ってください!そんな、急に―!あの、それにもう朝ですし!」

色々な理由をくっつけてはみるが、当の本人はまったく動じない。

「千鶴。」

呼ばれれば心臓がはねて、何も言えなってしまう。

「・・・・・俺は、お前を愛している。」

見つめられて言葉を失う。
そっと、風間の顔が近付いてくる。
唇が触れる寸前、千鶴も想いを言葉にする。

「私も・・・・・愛して、います。」

やわらかい朝日の中、二人の時間は甘く溶けていった。