会いたい





「気持ちの整理がついたら―」


風間と別れて半年が過ぎ
千鶴は一人、江戸に戻ってきていた。

夕暮れ。

川原の近くで夕日を眺めて過ごす。
最近の習慣。
新撰組の最後を見て、多分そこですでに心は決まっていたんだ。
千鶴はそう思っていた。
だって、会えない事がこんなにも切ない。

「風間・・・・・さん・・・・」

ふと名前を呼びたくなる。
彼の声が聞きたくなる。

「・・・千・・景・・・・・さん」

呼んで、急に怒りたくなった。
会いたいのに会えない理由。

どこに会いに行けばいいの?

あの時、初めての口付けをして・・・
その事に驚いていた千鶴は、風間に会うためにはどこに行けばいいのか聞きそびれてしまった。
そんな自分に怒りたくなる。
それと同時に、寂しさがこみ上げる。

会いたい

会えない期間が長いほど、想いは募る。
離れてから、自分がどれだけ風間のことを好きだったのか思い知ってしまった。
来なければ迎えに来ると言っていた風間だが、半年経っても迎えに来ない。

もしもう一度会えたら・・・・何て言おうか。

そんな事を思いながら、一人帰路を歩き出す。
ぽつ、と何かが上から落ちてきた。

「雨・・・」

周りの人たちの足が速くなる。つられて千鶴も早足になる。
家の近くに来た頃には、雨は本格的に降り始めていた。
ばしゃばしゃと音を立てて走る千鶴。建物の影を曲がったところで人とぶつかってしまった。
ばしゃっと大きな音を立てて、後ろに倒れる。
ぶつかった人はよほど急いでいたのか、すまない、と言って走り去る。
服はぐっしょり濡れてしまっていた。

「あ〜・・・・・」

千鶴は走るのを諦め、ゆっくりと家に向かう。
玄関の前に着いたのはいいが、鍵が見当たらない。
ぱたぱたと服を探る。
・・・・・ない。

「落しちゃったのかな。」

それでも諦めずに服を探る。
だんだんと濡れた服に体温が奪われていく。

「っくしゅっ!」

くしゃみをしたところで、急に何かに体を覆われた。
綺麗な、白い着物。
雨が降っているのに、それは全く濡れていない。
ふ、と
知ってる、においがした。
あの時のにおい。
彼の、におい。
後ろを振り向こうとする千鶴。
振り向く前に、彼が言う。

「いつになったら、俺のところに来る?」

愛しい人の声。ずっとずっと会いたかった人の声。
振り向いたときには、頬を涙がつたっていた。

「待ちくたびれた・・・・。迎えに来た。」

赤い傘を差して、彼は立っていた。

「風・・・間さん・・・・」

風間の綺麗な顔が近づき、そのまま口付けをされる。
深く、深く。
会いたかった気持ちが、口付けに移る。
風間は息が出来ないほどに、深く、深く。
それに応えるように、千鶴は風間の背に腕をまわす。
冷えた体を包み込む暖かい体温。

「会いたかったです・・・・風間さん」

ほんの少し唇を離し、風間はやわらかく笑む。
そしてぎゅっと、千鶴を抱きしめる。

雨が上がるまでは、ここで二人きり、
雨が上がったら、風間の住む土地で、いつまでも。