優しさの速度






天気が悪かったせいだろうか、
珠紀は今朝から体のだるさを感じていた。

それが風邪をひく前兆であることは当人がよくわかっていた。
なので、今日の体育は無理をせずに休んだし、昼食も風の当たる屋上ではなく教室でとった。
どうにか放課後までたどり着いた。
・・・・・・が。
いよいよ寒気を感じ始めてきた。熱が出てしまったのかもしれない。
今日は寄り道しないでさっさと家に帰ろう。
そう珠紀は思った。


いつもの帰り道。
今日は拓磨と二人きり。
拓磨はなんだかソワソワしていた。

「・・・・・・拓磨?どうしたの?」

聞くと、べつに、と返される。

「?」

ちょっと考えてみる。
そういえば、お昼休みのときに何かを忘れたって言ってた気がする。

「そいえば、何を忘れたの?なんか、そんなこと言ってたよね。」

ぎくっと拓磨の肩が揺れる。

「・・・・・・・・・・」

二人の横を、他の女子生徒が通り過ぎる。
じゃりじゃりと二人分の足音が響く。
しばし、間。

「・・・・・・ビデオ。」

「・・・え?」

「ビデオ、予約し忘れた。」

「・・・・・・・・時代劇・・・・?」

「・・・・・・」

少し顔を赤らめる拓磨。

「じゃ、先帰っていいよ?急ぎなって、拓磨。」

「・・・・・・・・・」

拓磨は黙ったまま、歩く速度を変えるわけでもなく。
また一人、男子生徒が横を通り過ぎていく。

「いや・・・・・・・。いいや、今日は、別に。どうせ再放送のやつだし。」

そう言って、急に珠紀のカバンを取る。
え?っと珠紀が思ってると、拓磨は心配そうに顔を覗き込んでくる。

「なんか、今日、お前元気ないみたいだから・・・・・。大丈夫か?」

急な言葉に驚く。
体育を休んだからだろうか、それとも昼食を教室でとったからだろうか、
拓磨は今日一日中、心配してくれてたのかもしれない。

「・・・ありがと、心配してくれて。」

拓磨はふ、っと笑って、そのまま前を向く。
一人、また男子生徒が二人を追い抜いていく。
珠紀はその姿を目で追う。

「・・・・・・・・・」

ふと気付く。
もう何人の生徒に抜かされただろうか。
どうやら、歩くのが遅いのは珠紀と拓磨らしい。
体がだるいせいか、歩くのがいつもより遅いことに気付く。
顔をあげて横を見る。
いつもの拓磨の顔。
それが、ふと目だけ珠紀のほうを見る。
目が合う。
拓磨は、これ以上ないという位の柔らかい笑顔を向ける。
珠紀は頬を赤く染める。
嬉しさで目が潤む。
そのまま珠紀は拓磨の腕にくっつく。

「どした?」

優しい拓磨の声。

「なんでもないよ。・・・・ありがとね、拓磨。」

甘える珠紀の声。

くっついた拓磨の腕から、暖かい気持ちが広がっていく。