憂いの凶
3月14日。
ホワイトデー。
今朝も珠紀はいつも通り、おみくじを引いていた。
「凶」
・・・・・・・・・・・・・・・まあ、おみくじだし。
そう思って、軽い足取りで学校へ向かう。
途中、前方に見慣れた背中を見付けた。
「拓磨・・・!」
そう呟いて駆け寄ると、その足音に気付いて拓磨が後ろを振り向く。
「おはよー、拓磨!」
「おー。」
朝から会えたことが嬉しくて、つい顔が緩んでしまう。
にこにこしながら拓磨の顔を覗き込むと、拓磨は「なんだ?」という顔をして無言で問いかける。
珠紀はえへへ〜と笑って、ずんずんと先を歩く。
別にお返しを期待してるってわけじゃないけど、それでも一応、バレンタインは「特別」をあげたわけで。
拓磨はどう思ってるのかなあ〜なんて思ってしまう。
そんなことを考えてると学校に着いた。
今日は多分、一日中落ち着かないだろうなあと、珠紀は思った。
お昼休み。
とりあえず、今のところ何も・・・・・ない。
まあ、なにかする時間もないし、ね。
皆でいつも通り昼食をとる。
にこにこしながらお弁当を食べていると慎司が声をかけてきた。
「先輩、今日は何かいい事でもあったんですか?」
「へ?な、なんで?」
「・・・・・・・顔がずっと綻んでいる。いい事があったのか?」
祐一がお稲荷さんをつつきながら聞いてくる。
「えっ!いや、べつに!な、なにもないですよー!」
「・・・いつものことだろ。ヘラヘラしてんのは。」
クロスワードを解きながら静かに突っ込む拓磨。
確かに。と真弘がうなずく。
でも今日は何を言われても気にならない。
それでも、にこにこしている珠紀に、4人は首をかしげた。
放課後。
とりあえず・・・・・・・・・まだ、なにもない。
まあ・・・・・、どうせ一緒に帰るんだし。
そう思っていると拓磨に声をかけられた。
「おい、まだ帰らないのか?」
いつもと変わらない調子の拓磨。
ふと、・・・・・・・少しだけ、不安がよぎる。
忘れてるのかな・・・・。
学校を出ると真っ赤な夕焼けが目に入った。
「凶」
今朝のおみくじを思い出してしまう。
でも、拓磨に限ってそんなこと・・・。
バレンタイン、あんなに喜んでくれたし。
ちらりと拓磨を見る。
夕日に照らされて、いつもよりかっこよく見える。
ふと視線に気付いて、拓磨がこっちを見る。
どうした?と問われ、なんでもないと首を振る。
沈黙が続く。
じゃりっじゃりっと二人分の足音が響く。
いつの間にか神社の階段の下まで来ていた。
まだ・・・・・・何もない。
いつもならここで別れる。
珠紀は意を決して、聞いてみることにした。
もしかしたら、忘れているのかもしれない。
「拓磨・・・・・あの・・・・」
「・・・ん?」
心臓が今更ながらドキドキしてくる。
「えっと・・・・・・・・・チョコ・・・おいしかった?」
間抜けな質問をしてしまったと思う。
「チョコ?・・・・・・・・え、・・・・・なんの?」
唐突でわからないのは当たり前。
「だから・・・・・・バレンタイン・・・の。」
ああ、と思い出したように美味かったよ。と言う拓磨。
チョコ、さんきゅな、と言って・・・・・・・・・・それきり。
じゃあな。と言って背中を向けて歩いていってしまう。
ぽつんと取り残された珠紀。
えーーー・・・・・!ひどい・・・・・・。
やばい・・・・涙出そう。
そう思ってぼーっと立っていると拓磨が振り向いた。
すると、珠紀を見て拓磨が足早に戻ってきた。
そのまま拓磨を見つめていると、顔を覗き込んできた。
「珠紀?・・・・・どうした?」
「え?」
「泣きそうな顔してる・・・・・。」
そう言ってそっと頬に触れる。
心配そうに見つめてくる拓磨。
「・・・・・別に・・・・・なんでもない。」
今日はホワイトデーだよ、なんて・・・・・言えるはずもなく。
「何でもないはずねえだろ?言えって。珠紀。」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
多分、言わないとずっとこの状況のまま。
自分から言うのもなんだか気が引けるけど・・・。
「3月14日って何の日だか・・・・知ってる?」
「・・・・・・・ホワイトデー、だろ?」
え!?っと顔をあげる珠紀。
「知ってて、・・・・・・・!」
知ってて何もないの?
・・・・・・・・つまり、それって・・・・・お返ししたくないって事?
拓磨にとって、私のチョコって・・・・・
うっ、と涙がにじむ。
でも今は、絶対に拓磨に見られたくない。
「・・・もういいよ・・・。ばいばい、拓磨。また明日ね・・・・・」
俯きながらそう言って、階段を登り始める。
すると突然手を引かれた。
そのまま抱きしめられる。
「・・・どうしたんだ?今日は、珠紀。・・・・学校じゃあんなに機嫌良かったのに。」
しゅがないな、という言い方。
全部拓磨のせい。そう言ってやりたい。
「まっ、・・・・・その、なんだ・・・・・・。明日は・・・学校終わったら何でも好きなもの買ってやるからさ。
機嫌直せよ。・・・・・本来は飴のお返しなんだろうけど・・・。それじゃ、ありきたりだし、つまんねえだろ?」
・・・・・・・・・飴・・・・・・?
「なにそれ・・・・・・。」
珠紀は声をあげる。
「なにそれって・・・・お前、さっき自分で言ってただろ?3月14日がなんとかって。だから、明日の放課後は、・・・・・その、デート、してやるから。」
・・・・・・・・・・・・・・・・明日・・・?明日が、・・・・・・
「明日が14日?」
「・・・・・・だよな。今日は13日。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔に熱が昇るのがわかる。
「機嫌、良くなったか?」
そう言われてうん、うん、と強くうなづく。
抱きしめられたまま拓磨の顔を見上げる。
真っ直ぐに優しい目が見つめ返してくれる。
また、涙がにじむ。
「すぐ泣く。」
優しく笑む拓磨。
今度は涙を見られてもいいと思う。
ぎゅっと強く抱きつく珠紀。
「ごめんなさい。」
疑ったりして。
「はは、何のごめんなさいだ?」
今日の事を言ったら、拓磨は怒るかな。
きっと笑って馬鹿にされちゃうよね。
「珠紀。」
呼ばれて顔を上げる。
「・・・・・キス、してもいいか?」
うん、と言って珠紀は目を瞑る。
明日はきっと、楽しいデートになる。
そんな風に思った。