少しだけの恋心
(ゲーム中のお話です。)
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「鬼崎ー!こっち手伝ってくれ!」
「鬼崎くん、こっちもお願い!」
最近、珠紀には気になっていることがあった。
「鬼崎くん、今日は舞台稽古、出てきてよね。文化祭に間に合わなくなっちゃうから。」
文化祭で珠紀のクラスは劇をやることになった。
拓磨はわき役とはいえ、一応舞台に上がる。
本人はかなり嫌がっていたが、多数決で決定したため、拒否は不可能だった。
今日も放課後、珠紀のクラスは文化祭の準備に慌ただしい。
「・・・・・だいたい。なんで俺が劇なんかに出なくちゃならないんだ?向いてないことくらい、わかってるだろ。」
ぶつぶつと文句を言う拓磨にクラスメイトが反論する。
「そーこが面白いんじゃない。ええ?あの鬼崎くんが劇に出てる!みたいなさあ~。」
「そうだぜ、鬼崎。おもしれえじゃねえか!我慢しろ。」
小さな村だけあって、皆仲がいい。
一つの場所に集まって作業をしていると、自然と小学校時代の思い出話に花が咲く。
「そういえば昔さあ~」
珠紀は教室の隅で、劇で使う小物を作っていた。
自然に耳に入ってくる思い出話。
拓磨と笑い合うクラスの女の子たちを見ていると、なんだか心がそわそわして落ち着かない。
この年になって転校してきた珠紀には、当然わからない話ばかりだった。
空が薄闇に包まれて、文化祭の準備も今日はここまでとなった。
珠紀はいつも通り、拓磨と帰ろうと廊下で待っていた。
「・・・・・・・・・」
なかなか教室から出てこない拓磨。
「・・・?拓磨?」
中を覗くと、女の子が一人、拓磨に手を貸してもらって、重い木の箱を運んでいた。
なんだか二人で楽しそうに話している。
「わ、私も手伝うよ!」
珠紀は無意識に声をあげていた。
帰り道。
秋の虫の声が、夜の空に響く。
ざくざくと二人分の足音。
いつも通りの光景に、珠紀は少し心が落ち着く。
歩きながら拓磨に声をかける。
「・・・・・・拓磨・・・」
「・・・・ん?」
前を向いたまま返事をする拓磨。
いつもの事なのに、今日はそれが気になってしまう。
「・・・・そ、そうだ。今日は・・・私が拓磨を送って行ってあげるよ。」
「・・・・・・・・・は?」
「たまにはさ。ね?拓磨の家見てみたいしー。」
「なんだ、急に。だいたい、珠紀が俺を送ってどうすんだよ?」
拓磨はそう言って、呆れたように笑う。
「・・・だっていつも拓磨ばっかり私の家見てるじゃん。」
「意味分かんないぞ、珠紀。」
・・・・拓磨が・・・知りたい。
「ずるくない?私ばっかり・・・・・・」
知られてるみたいで・・・・。
「なぁに言ってんだ。ほら、さっさと帰るぞー。」
ざくざくと歩いて行ってしまう拓磨。
珠紀は立ちつくくしたまま俯く。
いつまでも聞こえてこない足音に、拓磨が振り向く。
「・・・・珠紀。」
「・・・・・・ばか」
「あ?お前・・・ばか、とか言ったか今。」
「・・・守護者なんだし・・・・私はもっと、拓磨のこと・・・・知っておかなきゃと思って・・・」
「・・・・・そんなこと必要ないだろ。」
「必要だもん。」
「必要ない。」
「必要なの!」
「なんで」
「・・・・・・・・・・」
風が通り過ぎる。一瞬、虫の声が消えた気がした。
ざくざくと拓磨が戻って来て、珠紀の目の前で足を止める。
「・・・私・・・は・・・・・思い出とか、知らないし・・・・。」
「・・・・・・・」
「拓磨の事とか・・・・わかんないもん・・・・」
・・・・・ただの・・・やきもちだ・・・・
珠紀はそう思った。
拓磨と楽しそうに話す女の子に、クラスメイトに。
自分の知らない拓磨の話をしないでほしい。
みんなは拓磨が守護者だって知らない。
拓磨の家だって知らない。
拓磨と私の関係だって、誰も知らない。
だから、少しだけ私の事を特別扱いしてほしい。
ほかの女の子とは、少しだけでいいから。
「・・・珠紀。」
呼ばれて顔を上げると、そっと頭をなでられる。
そのまま頭を引き寄せられて、やわらかく抱き込まれる。
「・・・・・・た、たく・・・ま?」
「・・・・なんでか・・・・急にこうしたくなった・・・・」
きゅう、と胸が締め付けられる。
私も・・・・こうされたかった・・・。
そう思って珠紀は拓磨の腰辺りに手を添えて、ぎゅっと制服を掴む。
このまま、明日も二人の関係は変わらず。
でも少しだけ、心が通いはじめ、
本当に本当の気持ちに気付くのは
まだ、先の事・・・・。