眠りにつくまで






電話を鳴らすと、聞こえてくる声は拓磨だった。

鬼斬丸の封印後、両親を説得するために家に帰って来た珠紀は、長電話をすることが多くなった。
相手はもちろん、季封村にいる拓磨。

電話越しの拓磨の声。
優しい声で名前を呼ばれれば、胸がきゅうっと締め付けられる。

会いたいけど・・・でも、もう少し我慢。両親を説得させるまでは。

電話をするたびに、そう自分を納得させる。
声を聞いて切なくなるならメールで我慢すればいいのだが、そんな事は無理だった。

今日も、拓磨の声が聞きたくなって、珠紀はメールをうつ。

“今、電話しても大丈夫?”

五分もすると返事が返ってくる。

“明日でもいいか?”

はあ、とため息をつく珠紀。
最近、よくこの返事が返ってくる。
前はメールをうって五分もしないうちに電話がかかってきたのに・・・。

“わかった。”

ぎゅっと膝を抱えて、そこに顔をうずめる。
寂しくて、体が震える。

声が聞きたい。ううん・・・・・会いたいよ・・・拓磨。
なんで、電話してくれないの?
拓磨は話したくないの?
毎日でも声が聞きたいのは、私だけなの・・・?

そう思ってふいに顔を上げる。

・・・・・しつこかったかな・・・私・・・。

嫌われたらどうしよう、と不安がよぎる。



夜、11時。
珠紀はお風呂からあがって、自室で髪の毛を乾かしていた。
髪をとかして布団に入る。
携帯で時間を確認しようとすると、着信があった。
名前は「拓磨」。着信は午後10時30分。
珠紀は飛び起きてリダイヤルを押す。

電話を鳴らせば、聞こえてくるのは

「もしもし」

「拓磨。」

顔が火照っているのがわかる。
緩んだ自分の顔が、簡単に想像できる。

「・・・電話、した?」

「・・・・・・・ん。」

ぎこちなく返事をする拓磨。
珠紀はばふっと布団に入って、横を向いたまま話す。

「明日電話するんじゃなかったの?」

「・・・・・やっぱり・・・・今日、聞きたくなった。」

「へ?」

「声だよ、お前の。・・・・てか・・・いつも、聞きたい。」

電話越しだと、少し素直に思える拓磨に、顔がほころぶ。

「じゃあ毎日しようよ、電話。私だっていつも聞きたいよ、拓磨の声。」

自分も電話越しだと素直になれる。

「・・・・・・・でも駄目だ。毎日はだめだ。」

意味のわからない言葉に、珠紀は布団の中で首をかしげる。

「なんでダメなの?意味分かんないよ、拓磨。」

会えないんだから、せめて声が聞きたいよ。
そう言うと拓磨は何も言わなくなる。

「拓磨?」

「声聞いたら・・・だめだ。」

「?なにが?」

「・・・・・・」

会いたくなる。

小さく聞こえた。

「会いたくなって・・・・抱きしめたくなる。」

声を聞くと、会いたくて、寂しくて、でもだから声が聞きたくて。

「・・・・珠紀・・・早く帰って来い。」

唐突に言われた言葉に胸がきゅうっと締め付けられる。

「―・・・・た、拓磨・・・・は・・・」

胸がドキドキしてうまく言葉が出てこない。

「会いたい・・・?私に・・・」

「・・・・・・会いたい。」

どくどくと心臓が強く動く。

「・・・・私も・・・会いたいよ。」

「・・・・うん」

「もうちょっと・・・・待っててね、拓磨。」

「・・・待ってる・・・・」

「・・・・・うん。」

待ってて。

たぶん、今日はこのままずっと電話が切れない。

どちらかが眠ってしまうまで。