君を想う





その日の夕方は風が冷たかった。
季節の変わり目はいつもこうだったかと思う。
堅庭で羽を伸ばしていたサザキは、中に入ろうと立ち上がる。
と、そこにきょろきょろと周りを見渡しながら歩いてくる千尋を見付ける。
どうしたのか聞こうとしたとこで、千尋と目が合った。

「サザキ!やっと見付けた!」

そう言って走り寄ってくる。
その姿に心臓がどきっと動く。
でも、なるべく表には出さないように

「姫さん。なんだなんだ、俺を探してたのか?どうした?」

優しい声。他の奴には絶対に出て来ない声。

「はい、これ。サザキの分!」

ぽんっと目の前に差し出される。・・・・見たことのないもの。
薄い黄色で・・・・ほんの少し甘い匂いがする。
難しい顔をしてると

「前、言ってたでしょ?プリンてお菓子だよ。やっと、おいしく出来たんだ!食べて食べて!」

嬉しそうに、プリンを差し出す千尋。
このために自分を探していたのかと思うと嬉しくなる。

「ありがとな、姫さん。じゃ、さっそく一口・・・・」

「カリガネと二人で作ったの!何回も失敗しちゃったけど・・・・・・カリガネって優しいね。ずっと付き合ってくれて。おかげでおいしいプリンが出来たの。」

・・・・・・・・・二人。
楽しそうにプリンを作る千尋とカリガネの姿が浮かぶ。
いつの間にか食べる手が止まる。
それを見て、不思議そうに見上げる千尋。

「・・・・・・・サザキ?」

「あぁ、いや・・・・。いただきます。」

「はい、どうぞ。」

千尋が見つめる中で、一口。

「・・・・・・ん・・・うまいぜ、姫さん。」

上手く感情が乗らない。

「・・・・・あまり好きじゃない?プリン。」

眉を下げて、心配そうにサザキの顔を覗き込む千尋。

「・・・あっ、いや、好きだぜ。うまいうまい!こ、こんなうまい菓子は初めて食べたぜ!」

明らかな言葉。確かにおいしいのに、まるで嘘をついてるような言葉。
千尋は少し困ったように微笑む。

「もー、サザキってば、別に無理しなくていいのに。」

意外に明るい声。

「そっか、サザキはプリン、あまり好きじゃないのね。」

今度は少し陰りのある声。視線を下に向け、何かを考えている。
サザキは何も言えず、千尋を見つめる。
千尋は少し考えた後、急に顔を上げる。

「じゃあ、ケーキとかどうかな!甘さを抑えればサザキにもいけるかも!」

待っててね。と言って走っていこうとする千尋。

ケーキ・・・・・多分お菓子の名前。また、作る気らしい。それは・・・・誰と?誰と作る?

そう思った瞬間、サザキは千尋の手を掴んでいた。
急なことに振り返る千尋。

「サザキ?」

サザキは千尋を見つめたまま、

「いや・・・違うんだ、姫さん。プリンが、嫌いとか・・・・そうゆうんじゃねえんだ。」

ん?と首をかしげる千尋。

「・・・・・・・プリンは・・うまかった。本当だ。だから・・・・もう次の菓子は・・・・いらない。」

「・・・・・・おいしかった?ほんとに?」

「・・・・・・ああ。だから、次のは・・・作らなくていいぜ。」

「・・・・・無理してない?いいんだよ、別に。好みなんだし。」

「・・・・・〜あ〜・・・いや・・・・だから・・・
つまり!・・・・・・」

じっと次の言葉を待つ千尋。

「―・・・・もう、菓子は作らなくていい。カリガネと・・・・作るのはやめろ。もし、作りたいなら・・・俺が手伝う・・・・。」

「・・・・・・・・・・」

千尋の頬が少し赤くなる。

「・・・・・・・」

目を合わせることが出来なくて、サザキは片手で千尋を抱きしめる。
ふふっと笑い声が聞こえる。

「ありがと、サザキ。・・・・・・嬉しいよ。」

「・・・・・・・・・・・」

はっきり、気持ちがわかった。
片手に抱きしめた存在を、愛おしく思う。

夕日がやわらかく金の髪を包んだ。