抱きしめた夢のあと





よく晴れた日。
そよそよと風が草原を駆ける。

豊葦原。

千尋は一人、草原にやって来た。
今日はサザキと海に出る約束をしていたのだ。
迎えに来る、というサザキに千尋は待ち合わせを提案した。
もちろん、迎えに来てくれるのは嬉しかったが、
待ち合わせ、という方が何だかドキドキして、楽しみが増える。
それが千尋には嬉しいわけで・・・・。


待ち合わせの場所が近づいてくる。

でも、きっとそこに立っているだろう姿が、どこにもない。
あれ?と思って目を凝らして見てみると、草原の中に赤い髪を見つけた。
頭の後ろに腕を組んで、大きな羽を広げて寝転がっている。
確かに時間通りに来たはずなのに、サザキはすでに寝入ってしまっていた。
そ〜っと足を運ぶ千尋。
起こさないように、寝ているサザキの隣に膝をつく。
幼い顔で、すうすうと寝息を立てている。

「・・・・・サザキ・・・」

小さく呼んでみる。
・・・・・・・・・・返事がない。
千尋はくす、と笑ってそっと赤い髪に触れる。
見た目よりずっと柔らかい髪。
いい子いい子、と撫でてやるとサザキが薄く眼を開けた。

「・・・・・・・千尋・・・?」

「・・・・おはよ。」

にこっと笑って言うとサザキの手が伸びてきて、千尋の髪を撫でる。

「・・・姫さんの夢、見てた。・・・・そしたら、ほんとに姫さんがいた。」

寝起きだからか、いつもより艶のある声に、千尋の心臓が強く動きだす。

「わ、私、―え、ええと・・・・な、何してたの?・・・サザキと二人だったの?」

ドキドキと早鐘が打つ。ほんのり赤くなった顔で千尋が聞く。

「・・・・ん?・・・こうして・・・・・・・」

サザキは言うと、両の手で千尋の頬を包んで引き寄せる。
え?という間に唇が重なる。

そのままサザキは千尋を抱き込んで、ごろんと体勢を変える。
千尋の体が草原に、サザキが千尋の上になる。

「夢の続き・・・・・。」

「ど、どんな夢だったのよ?」

「ん〜?」

にこっとサザキは笑って、もう一度口づける。

「・・・・んっ、・・・・」

ちゅっ、と唇の触れあう音。

「・・・ん・・・・・・花と・・・姫さんを抱きしめる夢。・・・・もう少しこのままで、いいだろ?千尋。」

いつもよりずっと、大人なサザキに千尋は戸惑ってしまう。

「サ、・・・サザキ・・・・ちょっと、今日のは・・・・だめだよ・・・・」

「・・・・・ん?」

「か、・・・・」

かっこよすぎる・・・・・

小さい声で言えばサザキの頬も薄く染まる。
海に出るのは、夕陽の時間になる・・・・かもしれない。