たまにすごく

その体温が嬉しくて、もっと、と欲しくなる。

それはいつだって、貴方だけ。







そんな衝動










「―――いたっ」

「・・千鶴?どうした」

陽が沈みかける時刻。
台所から聞こえてきた妻の声に左之助が振り向いた。
背を向けて立つ彼女に声をかけると、左手を上げながら千鶴が振り向く。

「・・・・切っちゃいました。」

「大丈夫か―――って!お前!なんてとこ切ってんだ!」

見れば左手首、太い血管のすぐ隣が切られていた。じわりじわりと赤い鮮血が白い腕に沿って流れる。
慌てて左之助は千鶴の手をとり、傷の様子を確かめる。
血のわりに深く切れてないことを確かめると左之助は「こっちに来い」と千鶴を居間に引っ張った。
棚から綺麗な布と薬を持ち出すと二人向き合って畳に座る。
左之助は手際よく手当てを施していく。

「痛くねえか?」

「あ・・・・少しだけ・・・・痛いです・・」

「ったく。どうやったら、んなとこ切るんだよ。しっかし危ねえな。もう少しで血管だったぞ」

「う・・・・ごめんなさい。まな板の上に置いてあった包丁を持ち上げたら手にぶつかっちゃいました。」

「ったく。気を付けてくれ頼むから。」

その必死な言い方に千鶴はついクスッと笑ってしまった。

「・・・・なぁに笑ってんだよ。」

言いながら左之助は千鶴の額を軽く小突く。

「ごめんなさい。嬉しくてつい・・」

「あ?」

「なんか・・・・心配してもらえて嬉しいです」

「・・・・・・当たり前だろうが。ほら出来たぜ」

「ありがとうございます」

見ると左手に綺麗に包帯が巻かれてあった。
その手をふわりふわり、と左之助の大きな手が撫でる。
柔らかく触れる左之助の手がすごく気持ちいい。

「さ、左之助さん」

呼ぶと左之助は「ん?」と聞き返しながら、やんわりと手の甲に口付けた。

「女なんだから気を付けろよ。傷が残ったら大変だろ。」

優しくそう言ってくれる左之助に千鶴は頬を赤らめて嬉しそうに頷く。

「・・・・」

―――もっと・・

千鶴は左之助の手に自分の右手を重ねる。

「い、いっぱい撫でてくれたら・・・・」

「・・・?」

触れた手がぽかぽかと温かい。
その体温がすごく気持ちよかった。

「すぐに、傷なんて消えちゃうかも・・・・・です・・・」

「・・・・・」

もっと触れてほしい、撫でてほしい。そう言外に聞いて左之助は優しく笑う。
甘えたことを口にするのは、千鶴にとって珍しい事。

「・・わかった」

そう言って左之助は千鶴の肩を抱き、その頬にチュッと口付ける。
ゆるゆるともう片方の手で千鶴の手を撫でてやる。

「手だけでいいのか?」

そう聞けば千鶴は赤い頬をさらに赤くした。
その様子を見て左之助はクスクスと嬉しそうに笑んだ。

―――もっと、と欲しくなる・・。


そう、それは


貴方だけ。