束縛
よく晴れた日の午後、千鶴は一人、庭掃除をしていた。
さかさかと落ち葉を掃いていると、縁側から声をかけられた。
「千鶴、今から散歩に出かけるか?」
声をかけたのは千鶴の旦那様、左之助。
「今、お掃除の途中ですから行きません。」
あっさりと言われて左之助はため息をついた。
今日の午前中、千鶴は一人で買い物に出かけた。
正午頃、帰ってきた千鶴の横には知らない男が立っていた。
聞くと味噌屋の息子らしい。千鶴が一人で重い味噌を運ぶのは大変だろうと運んでくれたのだ。
左之助はお礼を言ってその男を帰した。
千鶴の機嫌は、その時から悪い。
理由を聞いても答えないし、いよいよ左之助も困っていた。
左之助は、下駄を履いて庭に下りる。
千鶴の傍によって、もう一度問う。
「なにをそんなに怒ってんだ?千鶴。」
「・・・・・・・・」
答えない。
「おい、聞いてんのか?こっち向けって。」
ぐいと腕を引っ張って、無理やりこちらに向かせる。
「・・・・・・・・・だって・・・」
ようやく口を開く千鶴。
ん?と左之助は千鶴の顔を覗き込む。
「・・・左之助さん、全然平気な顔してるから・・・・・です。」
「・・・・・何がだ?」
見つめて、やさしく問う。
「私が、ほかの男の人と二人で家まで歩いてきたのに。」
「・・・・・」
「・・・そりゃあ、お味噌運んでくれただけだし、親切にしてくれた人だったけど・・・・でも・・私は、前に左之助さんが知らない女の人と話してるのを見て・・・・・やだった・・・から・・」
左之助さんは違うの?と言外に問う。
口を尖らせて俯く千鶴。
不機嫌な理由はそれか、と左之助はふっと笑いを洩らす。
それに気付いて顔をあげる千鶴。
「やだったぜ、俺だって。千鶴がほかの男と家路を歩くなんざ。」
「・・・・・本当?」
「ああ。・・・でも、俺は男だからな。そんなことを女に言うわけにはいかねんだ。」
「・・・・どうして、ですか?」
左之助は目線を下に向け、口だけ微笑む。
「好きな女を束縛なんかしねえ。誰と会うな、話すな、なんて言わねえよ。」
そう言って、目線を上げると、千鶴と眼が合う。
「ただ俺は、千鶴が俺から離れて行かねえように、抱き締めるだけだ。頭ん中俺だけにして、他の男が入り込む隙ができねえように、するだけだ。」
そう言って、左之助は千鶴をそっと抱き寄せる。
「・・・・もう・・・私の頭の中は、左之助さんしかいないんですけど・・・。」
「そりゃあ良かった。俺は、お前が離れていかねえように必死なんだ。その甲斐があったってもんだな。」
「ふふ・・・なんですか、それ。」
千鶴はぎゅっと抱きつく。
額に口づけを落とす左之助。
そのまま見つめ合う。
「・・・・・さあて、散歩でも行ってくるか?」
午後の散歩。
帰り道は愛しい人と二人きりで。