君の印







朱に紫を帯びた空を、鳥の群れが飛んでいく。
ふわりと流れる風が夏が近い事を教えていた。

そんな時刻、沖田家の庭には千鶴と総司の姿があった。

近所の家に用事があって出かけていた千鶴は、走って帰ってきたらしく、はあはあと息を切らして総司を睨んでいた。
・・・が、潤んだ目でそんな顔をされても迫力があるどころか、総司には可愛く思えてしまうもの。
彼女の右手には、もらったのだろう味噌が抱えられ、左手は・・・・なぜか自分の首、喉仏の少し左側を押さえていた。

「・・・・どうしたの千鶴?そんなとこ押さえて」

言いながら総司はニヤリと笑う。

「〜〜〜〜総司さん!!」

千鶴は顔を真っ赤にして大声をあげ、言外に「わかってるくせに!」と責める。

「ひどいです、総司さん!わた、私、すっごく恥ずかしかったんですからね!」

「え?な〜に?」

なにが?と首をかしげて総司が問うと千鶴は「これです!」と言って自分の首元を指さした。
“それ”を見て総司がクスクスと笑い出す。

「か〜わいい、千鶴。今まで気付かなかったの?」

「うぅぅ〜〜!」

千鶴の喉仏の少し左・・・。そこには、赤い・・・・“印”。

「恥ずかしがることないんじゃない?夫婦なんだし。」

「なっ・・・!そ、総司さんは、経験してないからわかんないんですー!恥ずかしいんですからね!
どうも今日は村の皆さんがニコニコしてこっちを見てるなあ〜って思ってたら・・・!こんな―――!」

言いながら千鶴の顔はどんどん赤くなっていく。
その様子を見ながら、総司は少し拗ねたような顔をする。

「そんなの僕にはわからないよ。だって千鶴、僕にはつけてくれないもんね、印。」

「だ、だって――そんなの―――!」
なんで拗ねてるのー!?
「〜〜・・・・と、とにかく。もうやめてくださいね、こんな・・・見えるとこにつけるのは・・・。」

「・・・・嫌なの?」

「え・・・・嫌じゃ――ない、ですけど・・・。」
恥ずかしいよ・・・・

「じゃあ、いいじゃん。」

途端に機嫌が良くなる総司。

「えっ――でも・・・」

「ねえ、僕にはつけてくれないの?千鶴の印。」

言いながら総司はさりげなく千鶴の腰に腕を回すと、その手から味噌を取り上げ、とん、と地面に置く。
つ、と千鶴の首元に指を這わせると、そこに、かぷっと吸いつく。

「きゃ!ちょっと総司さ――っ!」

ほのかな痛みに、ぴくっと肩が跳ねる。

「ん・・・・ほら。こうやってつけるんだよ。はい次、千鶴の番ね。」

そう言って総司は自身の首元をさらす。

「っ・・・・」

一瞬見えた、彼の色気にドキッとしてしまう。

「・・・・・・・千鶴。」

総司の胸元に置いた手をそっと取られて、人差し指の先に口付けをされる。
そのまま腕を彼の首に誘導され、きゅっと抱き締められる。

「千鶴、つけて?」

耳元で、甘えたような響きで囁かれて、心臓がドキドキと高鳴る。

「・・・もぅ・・・総司さんてば・・・・」

真っ赤になりながら言うと、総司は嬉しそうに目を細めた。

そうして、そうっと・・・千鶴は総司の首元に唇を寄せた。