かくれんぼ
(微糖です。すいません。)
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そよぐ風にほんのりと春のにおいが紛れている。
日に日に暖かくなり、そろそろ昼寝に最適な季節になって来ていた。
とはいえ、夕方はまだ肌寒い。
千鶴は屯所の庭に3、4人の子供たちが集まっているのを見つけた。
何やら相談しているらしい子供たち。
その様子がとても微笑ましくて、部屋の中から眺めていると、一人の子供が千鶴に気づいて声をかけてきた。
「あ、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん・・・?」
・・・・・・あ、私のことか!
呼ばれ慣れていない言葉に反応が遅くなる。
「どうしたの?」
言いながら千鶴は庭に下りていく。
「総ちゃんがいないの。」
「は?」
総ちゃん?
「皆でかくれんぼしてたんだけど、いつまでたっても総ちゃんが探しにこない。」
子供とかくれんぼ・・・てことは沖田さんの事かな?探しにこない・・・
「てことは、沖田さんが鬼なんだ?」
そうだよー、と子供たちが声を合わせて言う。
隠れている方ならともかく、鬼がいなくなるなんて・・・・
「なにしてるんだろ、沖田さんてば」
かくして、日が沈みかけたこの時刻から沖田探しが始まった。
子供たちには遅くなるから帰りなさい、と言ったのだが、どうしても総ちゃんを捜す、といって聞かないので、
夕食の時間には間に合うように帰る、という約束をした。
「沖田さーーん!どこですかー?」
「総ちゃーーーん!どこーーー!?」
バタバタと子供たちが走り回る。
「おっと!あぶねえなあ」
新撰組の屯所のはずが、隊士の方がよけて道を譲っている状態。
「総ちゃーーーん!わっ!」
ドン、と何かにぶつかった子供。倒れると思った瞬間、大きな手がその体を支える。
「おっと。大丈夫か?てゆか、なんでこんなに子供がうろちょろしてんだ?」
原田はきょろきょろと走り回る子供たちに目をやりながら言う。
その後を、頭の後ろで腕を組みながら藤堂が歩いてくる。
「土方さんに見つかったら大変なことになりそうだぜ。」
屯所内がちょっとした騒ぎになっている頃、千鶴は道場の中を見て回っていた。
「沖田さん、いますか?」
しん、としている道場内。外の方は沖田探しに騒がしい。
「ここにもいないのかな・・・」
言って外に出ようとすると、カタン、と音がした。
振り向くと道場入口から反対側にある壁。
その両脇にある道具入れから音がしたらしかった。
「沖田さん?」
いるんですか?と声をかけながら道具入れの戸に手をかける。
カラカラと開けると、壁に背を預けたまま眠る沖田がいた。
「沖田さんてば・・・・」
こんなところで眠ってしまうなんて、子供みたい。
くすっと笑って、沖田の肩にそっと手をのせる。
「沖田さん、沖田さん起きてください。」
ゆさゆさと揺する。ん〜、と言いながら沖田は薄く眼を開ける。
「あれ・・・?僕、寝ちゃった・・・?」
「風邪ひいちゃいますよ。起きてください。よかった、これで子供たちも暗くなる前に家に帰ってくれます。」
言ってるうちにぐらり、と沖田の体が傾いて千鶴の膝の上にこてっと横になる。
足は道具入れの中、上半身は千鶴の膝に抱きつくように・・・・すうすうと寝息を立てている。
「沖田さん!」
「ん〜・・・・もう少しだけ・・・・昨日よく眠れなかったんだ・・・・」
むにゃむにゃと眠そうな声で言う。
なんだか普段の沖田では想像もできない様子に、千鶴は顔を赤らめる。
か・・・・・かわいい・・・かも・・・・
すうすうと無防備な表情から目が離せなくなってしまう。
しばらく沖田を見つめていると、
ふと、疑問が浮かんだ。
“かくれんぼしてたはずなのに、なんで鬼である沖田が隠れているのか・・・・・。”
その答えはすぐにわかった。
ガタン、と道場の入り口の戸が鳴る。
膝に沖田を抱えたまま、千鶴が振り向くとそこには土方がいた。
「土方さん」
「・・・・・総司。てめえ、また子供と遊び回って、仕事もろくにしねえで・・・!」
すでにお怒りモードの土方。
あたふたとする千鶴。その振動で沖田が目を開ける。
「・・・・・・・」
土方の姿に気づいて、沖田はようやく目を覚ます。
「あ〜あ、見つかっちゃった。せっかく隠れて土方さんの目をすり抜けたのになあ。」
「んだと!?」
「・・・・あのう〜?・・・・・・沖田さんは、かくれんぼしてたはずじゃ・・・」
頭の上から落ちてくる声に沖田が顔をあげる。
「ん?そうだよ、子供たちとね。僕が鬼だったから、隠れた子供たちを探してたわけ。
そしたら不運にも土方さんが自室から出てきちゃってさ。
サボってるのばれちゃったら・・・・・土方さんて、五月蠅いでしょ?」
「・・・・それで、ここに隠れたんですか?」
「そ。で、寝ちゃったみたいだね、いつのまにか。」
飄々と言う沖田に土方は青筋を立てる。
「総司てめえ・・・・今日という今日は許さねえ!覚悟しやがれ!」
「おっとやばい。逃げないとね。」
沖田は、すくっと立ち上がると電光石火の如く土方の手をすり抜け、逃げていく。
「待ちやがれ総司ーーー!」
「あーーー!総ちゃん見つけたーー!」
あっという間に、遠くに声が流れていく。
千鶴はぽつん、と一人取り残される。そこへ原田と藤堂がやってくる。
「よう。総司のやつ、そんなところに隠れてたのか。」
「原田さん。」
「逃げたって意味ねえっての。なあ、千鶴?」
「そうですね」
三人、くすくすと笑いながら道場を出る。
もうすぐ夕食。
今夜の話題は、総司のかくれんぼに決まり。