独占欲
(ゲーム中のお話です。)
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ざわざわと、今日も大通りは賑わっている。
昼時には、おいしい蕎麦屋に列ができ、細道に入れば子供たちが笑いながら走っていく。
町には今日も平和な日が訪れていた。
新撰組屯所。
その外門を軽い足取りでくぐる男が一人。
散歩から帰って来た沖田は、屯所のどこに寄り道をすることなく、真っ直ぐに目的地に向かう。
とたとたと廊下を抜け、たどり着いた部屋の前に立つ。
「千鶴ちゃん、いる?」
・・・・何の物音もしない。
気配も、しなかった。
「おっかしいなあ。どこ行ったのか・・・って、まあ、あそこだろうねぇ。」
湯気を上げる茶碗。
慣れない手つきでお盆を運ぶのは沖田の探し人、千鶴だった。
「あの、土方さん、お待たせしました。お茶、入りました。」
「ん、・・・ああ、そこに置いてくれ。」
戸の隙間から覗くと案の定。
いつもの風景に、沖田は呆れたように溜息をつく。
「・・・・なあに覗いてやがる、総司。」
机に向かっている土方の後ろ姿から声がかかる。
「別に、覗いちゃいませんよ。今、声をかけようと思ってたところです。」
沖田は少し拗ねたように言って部屋に入る。
「沖田さん。どこに行ってたんですか?朝から姿が見えなかったから。」
「散歩だよ。それでさ、千鶴ちゃん、ちょっと出かけない?」
「え?出かけるって・・・・どこに―」
「俺はいいとは言ってねえぞ。」
机に向かったまま土方が口をはさむ。
数日前、千鶴に外出許可を出したところ、見事に騒ぎを起こして帰って来た。
そのため、千鶴の外出は控えられていたのだった。
「僕に自分の小姓を連れて行かれるのは嫌なんですか?土方さん」
「んなこと言ってねえ。」
じろっと沖田を睨む土方。
沖田は、はいはい、と言って両手を「降参」とばかりに上げる。
「ごめんなさい、沖田さん。私、外出禁止されてるから・・・・」
「すっごくいいところなんだよ。千鶴ちゃんだって絶対気に入るよ。」
身を乗り出して言う沖田に、千鶴はそこがどんな所なのか気になってくる。
「・・・・・行きたくなった?」
「ん〜・・・・・少し、・・・だけ・・・」
頬を紅潮させて俯く千鶴。
「誘惑してんじゃねえよ、馬鹿。」
「冷たいよねえ、土方さんは。少しくらい平気だと思うんだけど。」
そう言ってさりげなく千鶴の手を取って部屋を出ようとする沖田。
「おいっ!」
土方の制止を無視して廊下に出る。
手を引っ張られた千鶴は、急に立ち止まった沖田の背中にぶつかりそうになる。
何事かと前を覗くと、そこには近藤がいた。
「お、いたいた雪村君。金平糖を買って来たぞ。一緒に食べようと思ってな。総司も食べるか?」
夕方。
千鶴と沖田は二人並んで町を歩いていた。
人通りの多かった大通りも、夕刻にはだいぶ静かになっていた。
夕刻になれば他の危険は増えるが、とりあえず昼間よりは目立たないということで、千鶴の外出許可が出たのだった。
が、・・・外出できて嬉しい千鶴とは逆に、沖田は少し機嫌が悪かった。
「・・・あの・・・・沖田さん・・・?」
「・・・・・なあに?」
「あの、・・・どこに連れて行ってくれるんですか?」
「・・・言っちゃっていいの?行ってからのお楽しみ、ってゆうほうが面白いでしょ。」
・・・・・機嫌が悪いというか・・・・拗ねてる?
町の外れまで来たところで、沖田は山の上に続く長い階段を上り出した。
千鶴も後に続く。
長い階段を登り切ると、そこにはお寺が建っていた。
本殿の横には小さな店もある。
「え・・と・・・・ここ、ですか?いいところって・・・」
「そ。あっちの腰掛に座って待ってて。」
千鶴は言われるがまま店の横にある腰掛に座る。
と・・・・
眼下に一面に広がる京都の町が見えた。
夕焼けに染まり、赤く輝いて見える。
「わっ・・・・・!きれー!」
沖田が店のほうから皿を二つ持って歩いて来て、千鶴の横に座る。
「散歩の途中で見つけて、千鶴ちゃんにも見せてあげようと思ったってわけ。・・・・・すぐにでも見せたかったのに、随分邪魔が入っちゃってさ。まあ、近藤さんは別だけどねえ。」
「ありがとうございます、沖田さん。でもきっと夕陽の京都のほうが綺麗だと思います。この刻に来れて良かったです。」
にこっと笑う千鶴に、沖田も笑顔で返す。
「・・・千鶴ちゃん」
「・・・・・はい?」
「・・・・・・今度は・・・・一番最初に僕を選んでね。」
「・・・へ?」
意味がわからなくて首をかしげる千鶴。
見つめていると、沖田の顔が近づいて来て
ぐっ、と肩を抱かれる。
千鶴の顔が赤く染まる。
「わからないなら、いいよ。僕が勝手に一番に攫っていくから。」
「???」
顔を真っ赤にしながら沖田を見つめる千鶴。
その様子を見て沖田はくすくすと笑う。
そのまま、そっと耳元に口をよせて囁く。
「僕以外と仲良くしないでね。」
その人を、殺しちゃうから。
沖田は心の中で思って、千鶴の耳に口づける。
ぴくっと動いた千鶴を愛おしそうに見つめてから、沖田は皿のようかんを取る。
「黒ゴマようかん。美味しいんだ。」
あとは何事もなかったように・・・・・。
千鶴はしばらく沖田を見つけたまま動けなかった。
夕陽の町が、薄闇に染まるまで。