あなたの鼓動で安心させて






庭を見やると、そこには総司がいた。
少しずつ咲き始めた桜を見上げて穏やかな顔を浮かべている。

その顔があまりに穏やかで・・・・・ふいに、千鶴の胸が苦しくなった。
総司の姿は淡く、霞のように見えた。

「ぁ・・・・」

思った瞬間、千鶴は庭に駆けだしていた。
背を向けて桜を見上げる彼に、後ろから抱き付く。

「――っと・・・・千鶴?」

「っ・・・・・」

触れた背から、声の振動が伝わる。
ギュッとまわした腕に、彼の心音が響く。
胸元できつく着物を掴む千鶴の手に、つ、と総司の手が触れた。

「どうしたの?」

「・・・・・・・・」

不安になった。
この土地のおかげで、だいぶ体調は良いとはいえ、いつそれが変化するか分からない。
総司がいなくなってしまうのではないか、と急に胸が苦しくなった。

「総司さん・・・」

「・・・なに?」

「っ・・・総司さん・・!」

「ふっ、どうしたの、千鶴。」

そう言うと総司はそっと千鶴の手を解いて振り向く。
眉を下げ、俯く千鶴の頬に触れる。

「・・・・怖い事でもあった?・・大丈夫。僕がいるでしょ?ね?」

言うと、千鶴は、うん、と頷いてそのまま、きゅうっと抱きつく。

「今日は甘えんぼだね千鶴。」

クスクス笑いながら「かーわいい」と言って総司はぎゅっと抱きしめ返す。

「不安になったら、いつでもこうして。僕の鼓動を聞いて。・・自分以外の人の鼓動って安心できると思うから。」

「・・・・はい。総司さん。」

この鼓動が命の証。

どうか、来年の桜も一緒に見られますように。
そう願って、千鶴は目を閉じた。