共通お題・甘えてもいい?





熱を含む風が日増しに強くなり、夏が近いことを知らせている。

ある日の午後、新選組屯所。

千鶴は洗濯物を取り込んでいた。
冬場ではなかなか乾かない洗濯物も、午後には取り込める季節になっている。
大体が手ぬぐい類で、稽古で使用した物がその多くを占める。
千鶴は両手にたくさんの洗濯物を抱えて、自室に入る。
前がよく見えないため、慎重に足を運ぶ。
・・・と、ツンと何かにつまづいた。
ガクンと体勢を崩し前に倒れ込む。

「うわっ!」

手を付こうとするが、洗濯物で両手がふさがっているため、為す術がない。
倒れ込む瞬間、グイッと強い力に引っ張られた。
ぐるんと視界が回転したかと思ったら、いつのまにか天井を見上げている。
バラバラ、と洗濯物が畳に散らばる。

「・・・・・・・」

背中の下に、なにやら温かくて柔らかい感触がする。
それに、なんとなく窮屈に感じる体。
仰向けになっている千鶴の下からクスッと笑い声がした。

「千鶴ちゃん大丈夫?ずいぶんと派手に転んだね」

・・・この声は・・・・

「沖田さん!?」

沖田の上に仰向けになり、体を拘束されている状態らしい。

「なん―」

突然の出来事に言葉が出ない。

「あははは!」

その様子に沖田が笑い出す。

「や、もう放してください!」

無理矢理に体の拘束を解き、畳にぺたっと座り込み、沖田を見やる。
沖田は寝そべったまま、頭を片手で支えながら横を向く。

「ひどいなあ、助けてあげたのに。」

くすくすと笑いながら言う沖田。

「だって―」

転んだのは、人の部屋で寝ていた沖田のせいだと思う千鶴。
しかしニコニコと笑顔を向けてくる沖田にそうも言えず

「あ、ありがとうございます・・・」

口を尖らせながら、もごもごとお礼を言う。

「・・・洗濯物?」

チョイと手ぬぐいの端をつまんで沖田が尋ねる。

「たたもうと思って」

沖田はふーん、と言って笑顔のまま千鶴を見つめる。

「?・・・・あ!それよりなんで私の部屋で寝ているんですか?お昼寝だったら自分の部屋でお願いします。」

少しお姉さんぽく言う千鶴。

「だって、ここの方が気持ちいいんだもん。」

沖田はまるで子供のように答える。
そのままその場から離れる気配もない。
仕方なく、千鶴は散らばった洗濯物をたたみ始める。
ぱた、ぱた、と一枚ずつたたまれていく。
正座をしてたたむ千鶴を、沖田はすぐ横で寝そべったまま見つめる。
ほかほかと太陽の香りが漂う。

「お日様のにおいですね。」

にこっと笑って千鶴が言うと、沖田はそれに笑顔で返す。

「・・・・ねえ、千鶴ちゃん」

「なんですか?」

「・・・・・甘えてもいい?」

そう言った声が、すでに甘えていて
ドキッと心臓が跳ねる。

「えっ―・・・お、沖田さん?」

体の体温が急激に上がって熱くなる。
言ってる間に沖田がコロッと、千鶴の膝の上に頭を乗せる。

「はい、髪、撫でて?」

「はっ!?おき、沖田さん!?・・・ど、どうしちゃったんですか!?」

急に子供のように甘えてくる沖田に、あたふたと動揺する千鶴。

「なんでか甘えたくなっちゃった。いいでしょ?たまには」

目を瞑って髪を撫でくれるのを待っている沖田。

「早く。」

膝の上で甘える沖田が、すごくすごく可愛く、愛しく思えてくる。

躊躇って・・・
そ、っと髪を撫でると、目を瞑ったまま沖田はにこっと笑う。
何度も撫でて、時折、指を髪に絡ませてあげれば
気持ち良さそうに、沖田は体の力を抜いていく。

そのうちに、すうすうと寝息が聞こえてきた。
その姿は、いつもの沖田よりずっと幼い。

千鶴はいい子いい子、と髪を撫でて、微笑む。



外を見ると、いつのまにか空は薄い朱を帯びていた。

そろそろ、夕飯だー!と藤堂が走ってくる時刻。
こんな姿を見られたら、夕飯時の話題になるのはわかっている。

でも・・・



もう少しだけ・・・このままで。