夢の続きに・・・
豊葦原。
全てが終わり、平和が訪れた世界。
橿原宮。
その日の朝、千尋は久しぶりに庭に出ていた。
草の上に足を伸ばして、・・・いわゆる日向ぼっこ中だった。
朝のやわらかい光が、ほどよく気持ちいいのだ。
両腕をぐいと伸ばす。
「っんんーー!気持ちいい!那岐も誘えばよかったなあ〜。」
と、そこへ。外廊下の向こうから、当の本人が歩いてきた。
「あっ、那・・・・」
声をかけようとして、それが躊躇われる。
なんだか、様子がいつもと違った。
いつもは飄々とした雰囲気が漂ってるのに、今日はどこか、・・・一つ影を落しているように思えた。
声をかけるかどうか迷っていると、今度は那岐が千尋に気付く。
「・・・千尋」
そう呼んで、まっすぐ千尋のほうに歩いてくる。
千尋は、いつもの様子と違う那岐に、少し戸惑う。
「那岐・・・・どうしたの?なにかあった?」
聞いてる間に、那岐は千尋の後ろに座り込む。
足の間に千尋を入れて、そのまま後ろから抱きしめる。
「那岐・・・?」
顔を千尋の肩につけて力をこめる。
「ど・・した・・・の?那岐?」
・・・・・那岐は何も言わない。
小鳥が二羽、さえずりながら頭上を飛んでいく。
「・・・・・・・・夢、・・・・見た。」
「夢?・・・・どんな夢?」
「・・・・懐かしい夢・・・。あの頃の・・・・・師匠がいた・・・・」
「・・・師匠さんの夢、見たんだ。」
「・・・・・・」
那岐はゆっくり顔をあげる。
千尋はすぐ近くのその顔を見つめる。
心臓が、体中に響き渡るくらい、大きな音を奏でる。
那岐の顔がさらに近づく。
そして、唇が合わさる。
ちゅっと音をたてて離れ、しかしまたすぐに合わさる。
何度も何度も唇を合わせ、千尋は呼吸が苦しくなってくる。
「・・・ん、・・・・那・・岐・・・ん」
那岐はやっと唇を離す。
「・・・・どうしたの?那岐」
那岐は眉をひそめ、千尋の耳の横に鼻先をくっつける。
「・・・・・急に・・・怖くなった。もし・・・・・・師匠みたいに、千尋がいなくなったら・・・・僕は・・・生きていけない。」
ハッと、千尋は那岐のほうを見る。でも、表情は見えない。
那岐の言葉に驚いた。
那岐がこんなにも不安に、そしてそれを言葉にすることに。
那岐の手が少し震えている。
千尋は胸の前にまわされた那岐の腕をそっと包む。
「・・・・・大丈夫だよ、那岐。私はいなくならないよ。ずっとそばにいるよ。ね?大丈夫。」
・・・・・・・ゆっくりと・・・まわされた腕の力がゆるくなる。
千尋はゆっくり、那岐を振り向く。
迷子になった幼い子のような顔を、那岐はしていた。
ふわりと千尋は微笑み、両腕を那岐の首にまわす。
「大丈夫よ、那岐。どこにも行かない。」
千尋の首に顔をうずめて
「・・・・・・ん。行かないで。そばに・・・・・ずっとそばにいて。千尋。」
那岐はもう一度、抱きしめる腕に力をこめた。