紅葉の行方 千尋side






「屋上かな・・・・たぶん。」

そう思って、千尋は軽い足取りで屋上へ向かう。
お昼休み。
最近は、秋風のおかげで、屋上は穴場だった。

きっと、寝てるよね。

そう思って、なるべく音をたてないようにドアを開ける。
開けると同時に、外の少し冷えた空気が体をなぞる。
うわっと体を縮めてから、目線を上げると
まっすぐ先のフェンスに那岐を見付けた。
フェンスに体を預けて、足を伸ばして寝ている。

「ふふ。やっぱりね。」

自分が思ってた通りに昼寝をしている彼を見て、つい顔が緩んでしまう。
足音をたてないように、そ〜っと那岐に近づいていく。

下の校庭からは、外でお弁当を食べてるのだろうか、女の子たちの声が聞こえてくる。
なんだか、場違いなことをしているような気になって、少し笑ってしまう。
・・・と、那岐が体をよじる。

「やばっ」

足を止める。
・・・・・・・・・・・・・・・・寝息が聞こえてきた。まだ気づかれてはいないようだ。


やっと、那岐の目の前に到着。
千尋は那岐の前にひざをついて、そっと顔を覗き込む。
綺麗な顔。
寝てれば、こんなに綺麗でやわらかいイメージなのに、
起きているときの那岐は、それと全く逆だ。
でも、そこに隠れている優しさに、すごく魅かれる。
だれにも、その優しさを見せたくない。私だけが知ってる優しさであってほしい。
それが、千尋のちょっとした独占欲。

そんなこと思ってるって知ったら、那岐はどう思うかな・・・。
絶対に言わないけどね。

そう思っていると
ふ、と目の端に何か赤いものが映った。
その赤いものを目で追うと、それは紅葉だった。
こんな屋上にまで、風で飛ばされたらしい。

「うそ〜」

息だけの声で言う。一枚だけひらひらと風にゆれる紅葉。
右手を伸ばして取ろうとする。
と、バランスを崩してしまった。

「うわわっ」

後ろに倒れる、と思った瞬間。
左手を掴まれて、ぐいっと強い力でひっぱられる。
一瞬見えたのは迷惑そうな那岐の顔。
そのまま千尋は、那岐に抱きついてしまった。



・・・・・・・・・・・・・はあ。


「い、今、ため息ついたでしょ、那岐!」

抱き合っている体勢が恥ずかしくて、つい大きな声を出してしまう。

「・・・・・・千尋は見てて飽きないよ。それに、騒がしい。」

「・・・・・・・・・・いつ、・・・から?」

「・・・・・・・・何が」

「いっ・・・・いつから・・起きてたの?」

「・・・・・・・・・さあ。いつだっけ。」

「ひ、ひどい!目、覚めてるならそう言ってよ!」

真っ赤になりながら抗議する千尋を、那岐はさらに強く抱きしめる。

「・・・・・・あんなに可愛い千尋、めったに見れないからね。」


口をぱくぱくさせて那岐を見る千尋。
それを見て那岐はやわらかく微笑む。

それは千尋にだけ見せる、
特別な笑顔。


赤い紅葉が二人の横に落ちた。