昼寝の時間
暖かい日差し。
さて、今日も昼寝でもするか、そう思って那岐はここに来た。
天鳥船の庭、その隠された昼寝場所。
壁に背をあずけて、うとうとと良い気分になってきたところで、声をかけられた。
「那〜岐!」
聞き覚えのある声。
少し眉をひそめて、右目を薄く開ける。
声の主を確かめてから、また目を閉じる。
「那岐ってば!起きて!ねえねえ〜」
千尋は那岐の横にひざをついて、そでをくいくいと引っ張る。
いよいよ眠れなくなって那岐は目を開ける。
「・・・・・・・・千尋、また僕の楽しみの邪魔するわけ?」
「だって、那岐も一緒に食べたいかな、と思って誘いにきたんじゃない。」
「食べるって、何を」
「プリン」
「・・・・・・は?」
「カリガネにお願いして作ってもらえることになったの。どんなプリンになるかは、まだわからないけど。」
「・・・・・・・僕はべつにいいよ、プリンなんて。それより寝たい。寝させてよ。」
そう言って、那岐は硬い石の地面に横になってしまった。
それでも、かまわず千尋はしゃべる。
「プリンのこと考えながら堅庭にいたら、サザキが心配してくれてね、カリガネに頼んでくれたの。うまく作れれば嬉しいんだけど。あっ、風早にも教えてあげなきゃ、絶対喜んでくれるよね〜。あと、忍人さんにも食べてもらいたいし、柊はどんな顔するかな〜。あと、それと」
「ねえ、ちょっと千尋」
「え?なに?」
不機嫌そうな那岐。
「あ〜・・・・ごめ〜ん。うるさかったよね。じゃあ、ここで出来るまで待ってて。私、カリガネの手伝いしてくるから。」
そう言って立ち上がろうとする千尋の腕を、那岐は掴む。
顔は不機嫌なまま。
「那岐?」
はあ、とため息をついて
「千尋ってほんと、鈍感だよね。」
「ん?」
僕を誘いに来たくせに、他の男の話ばかり。と、小さく那岐はつぶやく。
「なにが鈍感?」
千尋にはあとの言葉が聞こえなかったのか、聞き返してくる。
「なんでもない。それより、千尋もここで昼寝していけばいいよ。ほら。」
と目線で自分のとなりを指す。
「えー、でも・・・・」
「いいから、ほら。」
ぐいと腕をひっぱると、那岐はそのまま千尋を抱え込んでしまう。
わっ、と千尋が声をあげたけど、そこは無視。
肩を抱かれて、
千尋は頬を那岐の胸に押し当てる格好になってしまった。
「あ・・・・・・・あのっ・・・」
突然のことで声が出ない。
「・・・・・プリンが出来るまでこのままでいればいいよ。わざわざ千尋が他のやつに知らせに行く必要なんかない。」
千尋は顔を赤くしながら、そっと那岐を見る。
那岐は気持ちよさそうに目を瞑っている。
どくっと心臓が動く。
そのまま千尋は何も言えなくなってしまった。
プリンが出来るまで、この状態から抜け出せそうにない。