バレンタインデート
(二人が高校生の話です。)
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「ねえねえ将臣くん、チョコレート欲しい?」
2月14日。
唐突に、望美は将臣に聞く。
朝、学校へ向かう途中のことだ。
「・・・なんだそれ」
「だってバレンタインだから」
なんだか間抜けな答えに将臣は苦笑いをする。
「・・・・それって欲しいかどうか聞いてからあげるものか?・・・てか譲にも聞いたのか?」
「聞いたよ。欲しいって言ってくれたから、朝練に行く前にあげた。」
そう言って望美はにこっと笑う。
「・・・・手作りかよ、今年も」
「そうだよ。欲しい?」
「・・・去年のは確か、しょっぱかった気がするな。ベタな失敗したやつ。」
よく覚えてるね、と苦笑いで望美が返す。
「その前のはチョコレートにナッツ入れるとか言って、出来上がったらナッツだらけで、ガリガリ食った気がする。」
将臣は思い出して、しかめた顔をする。
「〜よくまあ、それだけはっきりと。もうわかったよ!将臣くんは私のチョコレート欲しくないんでしょ!よっくわかりましたー!いーもん別に。他の人にあげるから!」
いよいよ頭にきた望美がそう言うと将臣は真剣な顔をして
「それはやめろ。もらった奴が腹こわす。」
「!〜〜〜馬鹿っっ!!」
怒っている姿を見ても、まだ冗談を言う将臣に望美は声を上げる。
そのままずんずんと先に歩いて行ってしまう望美。
将臣はガシガシと頭をかきながら後を歩いて行く。
「ははっ、からかいすぎたか」
楽しそうに言いながら少し早く歩き出す。
前を歩く望美に追い付くと、その腕を引っ張る。
「なによ、もう―」
「嘘だよ、欲しいぜ。」
低い声で囁くように言えば、みるみる望美の顔が赤くなる。
瞳を覗き込むと、まだ怒った色をたたえている。
「〜もう遅いです!他の人にあげることにしちゃったもの。」
「それは許さねえ。もらった奴が変な勘違いしたらどうすんだよ。」
今度は一切の冗談を言わない将臣。
声に低さが宿る。
「な、なに感違いって!義理チョコだよって言って渡すから平気だもん。」
ぷいっと顔を背けると、すぐに顎を取られて目をあわされる。
「義理チョコでも駄目だ。お前の手作りだからな。譲はまあ、しょうがねえとしてもだ。他のヤローは駄目だ。」
なにが?と聞き返そうとする望美に、将臣が先に口を開く。
「・・・俺のは、本命だろ?」
真剣な眼差しで望美を見つめる。
さっきまで冗談言ってふざけてたくせに・・・・ずるい・・・
・・・・・・こくん、と頷く望美。
顎を支えていた将臣の親指が、望美の唇をぷにっと押す。
そのまま口を少し開かせて、将臣は舌を入れる。
「んん・・・!」
深いキスに望美は声を洩らす。
唇を離すと将臣はまたキスが出来るほど近い距離で望美を見つめる。
「意地悪しすぎたか?他の奴にチョコなんかぜってー渡すなよ?」
「・・・・・わかってるよ。最初から他の人にあげるつもりなんかないもん。」
「・・・・・・嘘ついたってことかよ」
「自分で食べるのー!」
「じゃあ、俺にくれれば食べさせてやるぜ。」
「・・・・わかったよ。しょうがない、あげるよ、将臣くんに。」
そう言ってカバンからチョコを取り出して将臣に渡す。
「さんきゅ。」
嬉しそうにチョコの箱を眺める将臣に、望美も嬉しくなる。
はっ、として腕時計を見ると遅刻間違いなしの時間になっていた。
「あ〜・・・遅れて入るのもだりぃなあ・・・。海でも行くか。」
「うん、行く!」
そう言って二人並んで駅に入っていく。
いつも通りだけど、少し違う一日が始まりそうだ。