熊野宿屋






熊野。

峠を無事に越えて、今日の宿が決まった。
すぐにでも先に進みたい一行だったのだが、とりあえず、この宿で二泊することを決めた。
理由は・・・・・白龍の神子が怪我をしたとなれば、反対する者なんているはずもなく・・・。

結局、宿に着くなり、足の腫れを朔に見破られてしまい、八葉は大騒ぎ。
弁慶は薬やらなんやらで手当てをしてくれ、ヒノエは宿の人にかけあって、一番良い部屋を用意してくれ・・・
皆が皆、望美のために良いようにしてくれたのだった。

望美は、というと
とりあえず、あてがわれた部屋で着替えをすることにした。

足が痛むので、座ったまま上着を着替える。
と、そこに何のためらいもなく将臣が入ってくる。

「望美〜、夕め・・・−と、悪い。」

そう言って、将臣は背を向ける。
服を身に着けていない望美の背中を見てしまって、咄嗟に謝る。

「ちょっ、うそ、将臣くん!?やだ、今着替えてるんだから!ばか!」

「・・・・わり。」

将臣は少し頬を染め、苦笑いをする。
無言でそのまま待つ。
ごそごそと衣擦れの音がする。

「もう、いいよ。」

その声に、将臣は振り向く。
望美は右足に包帯を巻き、両足を伸ばして座っていた。
子供みたいに座る望美を見て、将臣は少し笑う。

「・・・・・・なによー。」

「べつに。」

そう言って望美の右横に同じように座る。

「・・・・・・・・・」

ちょっとした沈黙。

ふっ、と弱く笑って望美は将臣を振り向く。

「なんか・・・結局ばれちゃったね。」

「・・・・・・まっ、そんなもんだろ。ずっと隠せるもんでもねえさ。」

「・・・・・・うん。」

ちらりと、将臣は望美を見る。
左手をぽん、と頭の上に置いて、かるく撫でてやる。

「・・・・・あ〜あ。・・・結局迷惑かけちゃった。」

予定外の二泊は、望美を思ってのこと。
今は少しでも先に進みたいのに。

心の中を、申し訳ない気持ちと、情けなさが占める。

「よしよし、いい子いい子。」

気持ちを察してか、将臣がふざけて言う。

「もう!」

手を振り払うと、将臣は、ははっと笑ってそのまま抱きしめる。
腕の中に静かにおさまる望美。

「・・・・よく頑張ったな。」

「・・・・・・・・・・うん」

将臣の言葉に素直にうなずく。

「・・・・もう、無理すんなよ。みんなだって心配するだけだ。俺だって・・・・・お前に無理されちゃ・・・心配なんだぜ。」

「・・・・・・・うん・・・・ごめんね。・・・ありがと。」

きゅっと抱きつく望美。
ぎゅっと抱きしめ返される。


と・・・・・・
ぐう、と小さい音がした。


「・・・・・・・・・将臣くん、おなか、空いてるの?」

「〜・・・・もう夕飯だからな。てか、それを言いに来たんだって!ほら、飯!行くぞ!」

声をあげる間もなく、望美は腕をひっぱられた。
立ち上がった望美を、将臣はそのまま抱き上げて部屋から出て行く。

「ええ!?ちょ、ちょっと待ってよ!この状態で連れて行かれるの?」

「お姫様抱っこがいいなら、それでもいいぜ〜」

「ええ〜!?」

どたどたと将臣の足音が響く。
とりあえず。
二日間は、ゆっくり休むことになった。