貴方を想う 前編
(京ED後のお話になっています。)
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「今日は私が夕食作るから!出来るまで台所に入っちゃだめだよ、ヒノエくん!」
そう言って棟梁の妻、望美は台所に立った。
台所で慌ただしく動く後ろ姿を、ヒノエは隣の部屋から寝転がりながら眺めていた。
明日、ヒノエは水軍を引き連れて海に出る。
交易のため、半月は戻ってこられない。
望美は、ヒノエに手作りの夕食を食べさせてあげよう、と必死になっていた。
「気を付けて作るんだよ、姫君。」
ヒノエがそう声をかけるが、料理に一生懸命な望美には聞こえていない。
トン、トン、と野菜を刻む音。
少しぎこちないその音に、ヒノエは微笑む。
―と、
「いたっ!」
大きな声が上がる。
カシャン、と包丁の落ちる音。
ヒノエは状況を確かめる間もなく、望美のもとへ走る。
「望美!?怪我したかい?」
まな板のほうを向いている望美を覗き込む。
左手の人差し指から薄く血が流れていた。
「だ、大丈夫だよ、ちょっと切っただけ。」
望美は恥ずかしそうに言って、ぺろ、と指をなめる。
ヒノエはその手をとって、指を自分の口の中に入れる。
「ちょ、ヒノエくん!」
ちゅっ、と音をたてて口を離す。
真っ赤になった望美にヒノエはくすっ、と笑う。
「もういいよ望美。夕食はまた今度、作ってもらうからさ。」
えええー!と抗議の声を上げる望美。
「なんで?大丈夫だってば!血も止まったし。
「俺が交易から帰ってきたら二人で作ろうぜ。」
「い・や!」
「なぜだい?俺は楽しみだけどな。」
「・・・私だって楽しみだけど・・・・・でも今日も作るの!」
「それは駄目かな。姫君にこれ以上怪我をされたくないからね。」
有無を言わさず言うヒノエに、望美はぷくっと頬を膨らませてうつむく。
「だって・・・・・・」
途切れる望美の言葉。
ヒノエは、ん?と首を傾ける。
「・・・・・・・会えないんだよ?半月も・・・・。」
「・・・・・」
「ヒノエくんに何かしてあげたいの・・・・!」
「・・・・・・・」
うつむいたままの望美をじっと見つめてから、ヒノエは両手でその頬を包む。
顔を上げる望美に、そっと口づけをする。
「・・・・・・わかってるよ。」
唇を少し離した距離で言う。
「半月は長いけど・・・・・待っててくれるかい?」
甘い声で問う。
「・・・・・当たり前でしょ。」
にこ、と笑うヒノエ。
「離れる前に、してほしいこと、言ってもいいかな?」
「・・・・・・なに?」
そっとヒノエの唇が、望美の耳元に近づく。
「・・・今夜、思いっきり抱き締めさせて。」
かすれた声で囁くように言われる。
一気に赤くなる望美。
「・・・駄目?」
うっとりした赤い瞳。
望美はその瞳を見つめながら首を横に振る。
笑みを深くするヒノエ。
「・・・・でも・・・・・・半月過ぎたら、怒るからね?」
眉を下げて、少し寂しそうに言う望美。
ヒノエはもう一度口づけをする。
今度はさっきよりずっと深く。
「・・・・約束は守るよ、望美。」
明日は笑顔で見送れそう。
そう望美は思った。