入口の暖簾をよけ店に入ると、どっ、と賑やかな騒ぎ声が聞こえてきた。
見ると、そこにいるはずのない、
ダンダラの羽織りを着た隊士たちが食事をとっていた。
「え・・・な、なにこれ!?」
驚いた千鶴は、暖簾をよけた手をそのままに、その場に立ちすくむ。
どうして花火の警備をしているはずの新選組が、こんな所にいるのか。
「???」
首をかしげていると、食事をする隊士たちの一番奥から、ヒョイと顔が覗く。
「・・・・―― 千鶴!?」
いきなり呼ばれて、声の方を見ると、そこには藤堂がいた。
同時に隊士たちが千鶴の方を見る。
さすがに顔を見られるのはヤバいと思って、千鶴は急いで店を出る。
「なんすか隊長〜!知り合いすか?」
「女の知り合いなんていたんすかー?」
隊士たちはどうやら千鶴には気付かなかったらしく、
好き勝手に言って、藤堂をからかっている。
「う、うるせーな、お前ら!静かに飯食ってろよ!」
藤堂の声がしたと思ったら、店からヒョイとその姿を現す。
「へ、平助君・・・」
「悪い、千鶴。つい、名前呼んじまった。」
言いながら千鶴の手を引っ張り、店の中から見えない位置、路地に移動する。
雨もパラパラと降っているくらいで、すぐにでも止みそうだった。
手を繋いだまま、二人向き合って、狭い路地に入る。
「・・・にしても、・・・・なんか、珍しい格好してるな、千鶴。」
少し恥ずかしそうに言う藤堂。
なんだか千鶴も恥ずかしくなって、俯く。
「う、うん・・・。近藤さんがくれたの。せっかく着たから・・・・見てもらいたくて・・・平助君に・・・。」
「そ、そっか・・・。」
二人して俯いてしまう。
パタ、と屋根から水滴が落ちてくる。
・・・・と、
ふいに、藤堂が千鶴を引き寄せる。
「!?」
「・・・すっげえ・・・・似合ってるぜ。」
急に言われた言葉に、心臓がどくっと動く。
「あ、ありがとう・・・・・。」
藤堂は、うん、と笑って、そのまま千鶴の体を抱きしめる。
突然、ドンと大きな音が二人を包む。
見上げると、花火がすぐそこから打ち上げられていた。
「・・・あ。そういえば警備の仕事は?みんなで夕餉なんて取ってていいの?」
「ん?ああ。今、新八っつぁんが担当の時間なんだ。俺たちは休憩中。」
抱き合ったまま会話をする。
ドキドキしているのが聞こえてしまうんじゃないかと、
千鶴は二人の体の間に手を添える。
「あ、そっか。永倉さんと一緒だったよね。」
藤堂は千鶴のその手を取って、そっと、口付ける。
「へ、平助君・・・?」
藤堂は顔を上げると、じっ、と千鶴を見つめて
顔を傾ける。
「・・・え?」
近付いてくる藤堂にビクッと肩が反応する。
そのまま千鶴の首元に顔を傾けて、かぷっと噛む。
「え、ちょっと・・・平助く―・・・」
言ってる間に強く吸われて、かすかな痛みを感じた。
「・・・・千鶴・・・」
顔を上げると、首元に薄い赤が咲く。
「や、平助君!そんな所に―!」
「大丈夫だって。見えねーからさ。」
「ええ!?嘘、見えちゃうよー!」
くっきりと残っただろうそれに、
それを付けた藤堂に必死に抗議する千鶴。
藤堂はクスクスと笑って、そっと千鶴の頬を包む。
「だってさ。“俺のだ”って印、付けとかねーと心配なんだよ。」
「な、何言って・・・!」
まだ抗議すようとする千鶴の唇に、藤堂の人さし指が触れる。
優しい瞳で見つめられれば、それ以上、何も言えなくなってしまう。
「・・・千鶴、すげー可愛い・・・・」
言って、今度こそ唇が触れ合う。
「ん・・・・」
ドン、と花火がまた上がる。
橙の色が一つになった影を映し出す。
祭りの夜、二人の夜は、橙に溶けていった。
「京祭りの探し人・藤堂ED」