ぱらぱらと降っている雨の中、千鶴は大橋を渡っていた。
どうやら天気雨らしく、空には星が輝いていた。
その間を花火が明るく照らす。

少し濡れてしまった浴衣の袖を、パタパタと揺らして水分を落とす。
カラコロと歩いていると、橋のちょうど真ん中あたりに人影を見つけた。
その人影は、一人で橋から花火を見上げていた。

そしてその姿は、千鶴が探していた人だった。



白地に、薄い金と黒の色が入った浴衣。
薄い茶色の髪の毛に、端正な顔。

「風間さん!」

呼ぶと、彼はゆっくりと振り向く。
千鶴は少しでも早く近くに行きたくて、走り寄る。

「きっと風間さんも、お祭りに来ていると思って――わっ!」

ばしゃっ!と大きな音がたつ。
雨のせいで、足元が滑りやすくなっていたらしい。

千鶴はどうにか両手で体を支え、
全身が濡れることは避けられたが、裾の方はびっしょりと濡れてしまっていた。

「あ・・・・」

「・・・・なにをしている。」

ふう、と呆れたような溜息が聞こえてくる。
ザ、と風間の足音が近付いて、
腕を引っ張り、千鶴を立ちあがらせてくれる。

「・・・・・」

何も言わない千鶴に、風間から口を開く。

「珍しい格好をしているな。」

「・・・・近藤さんに、いただいて・・・」

「・・・・・台無しだな。雨が降っていたんだ。滑るに決まっているだろう。」

言われて、千鶴は俯く。

せっかく綺麗にして・・・風間さんに見せようと思ったのに・・・・

そう思うと情けなくて、
汚れた浴衣を着ている自分が恥ずかしくて、
涙が滲む。

「――・・・・」

こぼれそうになるそれを、唇を噛んでこらえる。

つ、と風間の親指が千鶴の唇をとらえる。
顔を上げると、風間の顔がすぐ近くにあった。

「切れる。噛むな。」

噛んでいた唇を離すと、風間がそこに口付けてきた。
唇を舐めるように口付けをして、そっと放す。

「その格好の方がいい。男装はお前には無理だ。」

「む、無理って・・・・。まだバレてないんですから、無理ではないと思いますけど。」

一生懸命やっている男装を否定されて、少しだけ反発する千鶴。
風間はそんなのはどうでもいい、という顔をして、ぐいっと千鶴の腰を引き寄せる。

「きゃっ!」

「いいから、もっと近くで見せろ。」

「か、風間さん・・・」

ふわり、と風間の匂いがする。
ぞくっと千鶴は体を震わせて、そのまま静かに風間の腕におさまる。

「・・・・・・・綺麗だな。」

初めて聞いたその言葉に、千鶴は顔を上げる。

「お前に男装は無理だ。」

さっきよりほんの少し優しい言い方。

「俺の傍にいれば、男装などさせない。」

風間の顔が近付く。

「気に入った女に、そんな事をさせるはずがない。」

唇が重なる。
今度はさっきより、ずっと深く。

「ん・・・・」

ちゅ、ちゅっと交わす口付けの音が、花火の音に紛れる。

上がった花火は二人を照らす。
唇を離して、見つめ合うと
クスッとお互いに微笑む。

「たまには、こうゆう逢瀬も・・・いいですね。」

言えば、風間は口角を上げてああ、と答える。


遠くには太鼓の音が、低く響いている。

二人きりの逢瀬は、まだ始まったばかり。







「京祭りの探し人・風間ED」