カタカタと下駄を鳴らしながら、階段を上まで登りきる。

後ろを振り向くと、先ほどまで追いかけてきていた男たちは、もういなくなっていた。
さすがにこの長い階段を登るのは嫌だったらしい。
はあー、と息を整えて顔を上げると、そこには火が灯され、祭り仕様に飾られた神社があった。

「わああ・・・・綺麗・・・!」

幻想的な雰囲気に、おもわず溜息が漏れる。

もう一度後ろを振り向いて、男たちが来ないか確認する。
・・・どうやら本当に諦めたらしい。
ほっとして、千鶴は少し神社を見て回ることにした。


カランコロンとゆっくりと歩いて回っていると、
ザリ、と神社の脇から足音がした。
振り向くと火に照らされたダンダラが見えた。
やばい!と思って千鶴は咄嗟にそのダンダラとは逆の方に顔を向ける。

顔は見えなかった・・・はず。

ドキドキと心臓が脈打つ。
さりげなく階段の方へ向かい、その場を去ろうとする千鶴。
と、背後から声がした。

「・・雪村・・・か?」

「え・・・?」
この声は・・・・

振り向くと、そこにはダンダラをはおった土方が立っていた。

「ひ、土方さん!」

まさか探していた人に、こんな所で会えるとは思っていなかった千鶴。
顔に熱が籠る。

「お前・・・・なんだ、その格好は」

「えっ!」

土方の登場に驚いて、千鶴は今の自分の格好を忘れていた。

「い、いや・・・あの・・・・その・・」

急に恥ずかしくなってきて、俯いてしまう。

「そんな格好で・・・・・こんな所でなにしてる」

少しだけ怒ったような口調にドキッとする。

怒らせてしまったかもしれない。

近藤の許可は出ているものの、土方には許しをもらっていないのだ。

「あの・・・近藤さんがこれ・・くださって・・・・お祭りにちょっと・・・」

「祭りって・・・一人で出歩くなっていつも言ってんだろうが。」

・・・・やっぱり、怒ってるんだ、そう思って謝る。

「ごめんなさい・・・」

この姿を見て何て言ってくれるだろう、と少しだけあった期待が砕かれた気がした。

よく考えれば、怒られる事くらいわかってたのに・・・・
でも、見てほしかった。
近藤さんのように言って欲しかった・・・

千鶴はしょぼん、と肩を落として階段の方へ向かう。

「もう帰ります・・・・ごめんなさい・・・・・」

カラ、と下駄が鳴る。

「おい!・・・おい、待て雪村!」

「・・・はい?」

呼ばれて振り向くと、いつの間にか土方が目の前に来ていた。

「お前、見るからに気落ちしてんじゃねえよ。別に・・・・祭りに来るなとは言ってねえ。」

「・・・・はい」

言われても、まだ俯いている千鶴。
土方はハア、と大きくため息を吐く。

「そうじゃねえ。一人で来るなって言ってんだ。そんな・・・・女の格好で来たら・・・いろんな輩がいるんだ。危ねえだろうが。」

心配してくれていたらしい言葉に、嬉しくなって千鶴が答える。

「あ、ありがとうございます。・・・あ、でも大丈夫です。さっきも走って逃げ切りましたから。危なくなったら全力疾走です。あの・・・それじゃ、もう戻りますね。」

「は?逃げ切ったって何――おい!」

言って階段へ向かおうとすると、ぐっと手を掴まれる。
振り向くと不機嫌そうな土方の顔があった。

「だーから!危ねえって言ってんだ!お前はそうゆう格好をすると、い――・・・っ」

急に言葉が途切れる。

「・・・・・?土方さん?」

「・・・・・・・・」

首をかしげて土方を見る千鶴。

無言の間が過ぎる。

急に土方は、あ〜!、と言ってガリガリと自分の頭をかく。

「いい女に・・・見えるから・・・・・」

「・・・・・っ!」

考えもしない言葉に千鶴の頬が真っ赤に染まる。

「あ、・・・えっと・・・・ひ、土方さん・・・?あの・・・」

「〜・・・・」

赤くなってあさっての方向を見ていた土方が、急に千鶴をその目に捉える。

「・・・・・・綺麗だ・・・。よく、・・・似合ってる。」

真面目に言って、千鶴の頬を撫でる。
千鶴は真っ赤になって声も出ない。

「・・・・・・」

土方は何も言わず、ただ頬を撫でる。

「・・・・他のヤローには、見せたのか?」

ううん、と首を振る千鶴に、土方はふっと笑う。
近い距離で見つめられて、千鶴の心臓は爆発寸前だった。
そのまま、土方の綺麗な顔が近付いて来る。
目をそっと閉じると、唇に温かい感触が触れる。

そうして、ちゅっと音をたてて離れていく。
ゆっくり目を開けると、土方が優しく微笑んでいた。

「・・・・・少し、俺と回るか、祭り。」

その言葉に自然と笑みが漏れる。

「はい!」

「よし。」

そう言って土方は羽織を脱いで、階段を先に降りはじめる。
その後を千鶴は追いかける。
そっと袖に触れれば、土方が柔らかく笑む。


ドンドンと太鼓の音が聞こえる。

初めての二人きりは、楽しいものになりそうだ。







「京祭りの探し人・土方ED」