桃
ミンミンと蝉が鳴く頃。
青い空には入道雲が現れ、太陽の暑い日差しが大地を焦がす。
ある夏の暑い日、玄奘と悟空は、お堂の裏にある広場に来ていた。
「いたっ・・・」
木の下で寝転がっていた悟空は、その声に体を起こし、隣で桃をむいていた玄奘の方を向いた。
「――どうした、玄奘?」
「っ・・・・ちょっと、しみただけです。大丈夫。」
「しみた?」
何が?という顔で悟空は首をかしげる。
「はい。これ・・・」
そう言って、玄奘は左の親指を見せる。
そこには小さな切り傷があった。
「昨日、夕食を作っている時に切ってしまったんです。」
「あ〜・・こうゆうの結構しみるんだよな。」
言って悟空は、ぱっと玄奘の左手を取ると、その親指をぺろと舐めた。
「ちょっ―――!!!?」
「ったく、しょうがねえな。」
悟空は玄奘の手にあった桃と小さな包丁を取り上げると、スルスルと桃の皮をむき始める。
あっという間に桃が小さく切り分けられていく。
「・・・・・・悟空」
「あ?」
意外な手際の良さに、玄奘は驚く。
そうしているうちにお皿の上に、一口サイズの桃が並んだ。
「よし、出来た。」
悟空は切った桃を一つ取ると、玄奘の口元に差し出してくる。
「・・・え?」
意味が分からず、玄奘は桃と悟空を見比べる。
「食いたかったんだろ?」
「え?あ・・・は、はい・・」
これを食べろ、ということでしょうか・・・
でも、これ・・・・
返事をしながらも、「悟空のために持ってきたのですけど」と心の中で思う。
でもせっかく悟空が切ってくれたのですし・・・
思いながら、その小さな桃を手で取ろうとすると、「違う」と言われた。
「口開けろって。手で持ったんじゃ、またしみるだろ。」
「あ・・・」
食べさせてくれるってことですね・・・
少し恥ずかしさがありながらも、嬉しくて頬が緩む。
小さく口を開けると、ぽこっと桃が口に入ってきた。
瞬間、悟空の指まで口に含んでしまった。
「ん・・・・」
「俺の指まで食うなっつぅの」
悟空はその指をぺろっと舐める。
「!!!」
そ、それは・・・!か、か、間接・・・・・!!
みるみるうちに玄奘の顔が赤に染まる。
「・・・あ?どした?」
「い、いえ!あ、あの・・・!」
「・・・・・・・・」
もごもごと口の中に残る桃に邪魔されながら、言い訳をしている玄奘を見て、悟空は「あ〜。」と納得したように呟く。
「何をいまさら」
そう言って、クイと玄奘の顎をとらえると
「?悟くぅ―――んっ!」
唐突に口付ける。
「んむっ―――」
するりと玄奘の口の中に悟空の舌が入ってきたと思ったら、その舌で、ころんと口の中の桃を取られてしまった。
・・・チュッといって互いの唇が離れる。
「ご、悟空、何を――!」
抗議の声を上げながら悟空を見上げると、もぐもぐと先程まで玄奘の口の中にあった桃を食べていた。
顔を真っ赤にして、ぱくぱくと口をさせる玄奘。
その様子を見て、悟空はクスッと笑う。
そして皿の桃をまた一つ、パクッと自分の口に入れ、そのままグイッと玄奘の体を引き寄せる。
「な!ちょ・・・悟空!?」
「今度は玄奘の番だぜ。ほら、取りやすいように小さめのにしてやった。」
そう言って悟空はぺろっと口に中を見せる。
「はい!?い、いいです!自分で食べますから!」
「駄目。早くしねえとずっとこのままだぜ?ま、俺はいいけどな。」
「う・・!」
悟空の足の間に向かい合うように座っている状態・・・。
・・・こ、これは・・・!子供達には見せられません!
刺激が強いというか・・・・それよりも私が恥ずかしいです・・・!
にやにやと見つめてくる悟空を見上げながら
か、からかわれているのでしょうか・・・!?
「め・・・目を・・・・」
か細い声で言う。
「ん?なんだって?」
「目を・・・!せめて目を、閉じててください、悟空!」
「あ〜、はいはい。」
ゆっくりと玄奘が顔を傾ける。
・・・そうして、二人の口が重なった。